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少女「水溜まりの校庭でつかまえて」 3

少女「水溜まりの校庭でつかまえて」 3

162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 02:54:20.09 ID:FpeXKyf/O
『卒業までにはちゃんと教えるよ』

僕「……うん、待ってる」


『えへへっ、楽しみに待ってるもん』

僕「結局、その言葉使いも直らなかったよね。子供みたい」

『う〜、だって成長しないんだから仕方ないじゃない……僕ちゃんはいいよね。身長も大きくなったしさ』

僕「別に変わらないでいいんだよ。そのままで……十分……」

『十分、なに?』

僕「じ、十分……な、なんでもない!」

『もう、そればっか』

僕「いいの! じ、じゃあまたね! バイバイ!」



163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 02:59:28.45 ID:FpeXKyf/O
そして、とうとう卒業式の日を迎えた。

当日は朝から大雨だったが、僕たちの式が終わる頃には今までの天気が嘘のように、空が晴れた。

校庭は水溜まりでたくさんだったけど……その水溜まりには太陽が映り込んでいて、とても綺麗な水溜まりだったのを覚えている。

式が終わり、帰る前に……僕は両親に時間をもらって彼女の元へ行った。

校庭の水溜まりで話したかったけれど、さすがに卒業生で溢れていたので……今日だけはベランダで直接話す事にした。

僕は一人、静かな廊下を走っていた。



164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 03:04:13.49 ID:FpeXKyf/O
『卒業、おめでとう』

教室の扉を開けると、中には……真っ赤なワンピースドレスを着た彼女が立っていた。

『ふふっ、可愛いでしょ、これ』

僕「……」

『そんなに見とれちゃう?』

僕「う、うん。お姫様みたい」

『えへへ、ありがとう。実はこれね……僕ちゃんからもらった洋服なんだよ』

僕「え、これが?」

『うん、覚えはないだろうけど……本当。この赤はね……ほら、私を雪の中から助けてくれた時があったでしょ』



166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 03:10:43.96 ID:FpeXKyf/O
僕「う、うん」

『あの時の血がね、私の体にかかったの。寒かったから……血がかかった所がとても暖かくて』

『生きている証だからさ……生を貰った、って言うのかな。私、とっても嬉しかった』

僕「そ、その洋服はどうやって?」

『ふふっ、これも血だよ。液体のやつとは違うけどね……何て言うのかな、気持ちとか情熱とか、そういうのが赤くなって表れてるの』

僕「……あの時は、助けるのに必死だったから」

『うん、そういう気持ちなんだと思うよ。このドレス、すごく暖かいもん』

僕「そう、なんだ。なんだか恥ずかしいな」



167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 03:16:22.67 ID:FpeXKyf/O
『……あ、また赤く暖かくなる』

僕「え?」

『ふふっ、何でもないよ。じゃあ、そろそろお別れだね』

僕「……」

『僕ちゃんと知り合えてよかったよ。私は一人じゃないって思えたから……』

『会いたくなったら、いつでも会いにきてね。私はずっと、ここから動かないから』

僕「う、うん……ぐすっ」

『ほら、男の子なんだから泣かないで。涙拭いてあげるから』

僕「うん……うん……」

『はい、じゃあ最後に卒業記念』

『ん……』

チュ。



168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 03:19:04.61 ID:FpeXKyf/O
僕「!」

『えへへ〜、初めて初めて』

僕「え、えっと、あの……」

『……』

『じゃあ、またね』

僕「……いつになるかわからないけどさ」

『……うん』

僕「もう一度、絶対また会いに来るから」

『うん……約束だよ』

僕「約束する」

『ふふっ、じゃあもう一度だけ……約束の』

『ん……』

チュ。



169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 03:23:56.85 ID:FpeXKyf/O
『さよなら、また会いましょう』

私はその挨拶を最後に、彼と離れた。

ベランダに出て、私はそっとヘアピンを外した。

……彼が校庭を駆けている。

目線は私のいるベランダに向けて、少し不思議そうな顔をしている。

しかし、すぐに何かに気付くと……私を見る事が出来る水溜まりを向かって走り出した。



170 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 03:28:29.19 ID:FpeXKyf/O
太陽が水面に反射して……私の顔はよく向こうに見えているようだ。

私を見つけて、彼はニッコリ。

私もそんな笑顔を見つけて……うっすらと涙を流した。

ドレスの赤は、これ以上にないくらい熱く暖かくなっている。

そして……。

彼が最後に大きく手を振ると、私の最愛の男の子はどこか遠く、道の向こうへ消えてしまいました。

私が小学校にいる間、誰かと話したのは……これが最後になります。

私はずっと、ベランダの向こうの水溜まりを見つめています。



171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 03:33:58.33 ID:FpeXKyf/O
僕「……ふう、これで必要な書類は全部書いたな」

僕「荷物チェックも終わったし、あとは寝るだけだ」

僕「……久しぶりだな、地元に帰るのも。まあたった二年くらいしか離れてないんだけどさ」

僕「……」



172 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 03:38:36.47 ID:FpeXKyf/O
あれから僕は、中学、高校を卒業し大学生になった。

大学では教師になるための学科を積極的にとっている。

理由は特に無いけれど、僕はあの学校の雰囲気が好きなんだという事に最近気付いた。

地元の小学校で教育実習する事になり……最近里帰りもしていない僕にとってはいい機会となった。

そして何より……。

僕(小学校には、彼女がいる……)



173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 03:42:52.27 ID:FpeXKyf/O
僕「こんにちは! 教育実習の……」

久しぶりの小学校、校舎全体の雰囲気は変わっていなかったが、内装はかなり変更されているようだった。

新しい名前の教室が増えたり、増改築でパソコンルームが導入されていたりと……昔の僕のが通っていた小学校とは何だか違う印象を受ける。

それでも、教室の造りや体育館の様子などは変わりようもなく……僕は当時の様子を思い出しながら実習に励んでいた。

そして、一週間も経ったある日の事。

僕は背中から声をかけられた。



174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 03:48:37.64 ID:FpeXKyf/O
「あ、先生、もう学校の仕事には慣れましたか?」

僕「あ、は、はい。え〜っと……まあまあですね」

「ふふ、同じ実習生として頑張りましょうね」

僕「は、はい!」

この人は、僕と同じ時期に実習に入った人だったか。

僕より年上で、大人っぽい魅力のある女性だった。

そんな人がいきなり僕に声をかけてきた、まあ仕事仲間なので当たり前といえば当たり前なのだが。



175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 03:54:05.16 ID:FpeXKyf/O
廊下で彼女と雑談をしていると……横を通る生徒からこんな話が聞こえてきた。


「ねえ、トイレの花子さんの噂って知ってる?」

「ええ〜、七不思議とか知ると呪われるからやめてよ〜……」

「じゃあ、放送室に閉じ込められるって噂の……」


「懐かしいですよね、ああいうお話って」

僕「そうですね。僕も昔はよく……」

「あら、私もです。そういう話は好きだったのでよく話していましたね。おかげで、見たく無いものまで見えるようになったり……」

僕「え、先生霊感があるんですか?」

「はい、霊と会話したり見つけたり……それくらいはできますよ」

僕「そう……なんですか」



176 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 03:58:30.05 ID:FpeXKyf/O
「ふふっ、先生も見えたりするんですか?」

彼女の思い出が、一気によみがえってくる。

僕「は、ははっ。僕は見えるというより見せられてたようなもので……」

「どういう事ですか?」

僕「い、いやあ。霊感のある先生にならお話しますけどね。実はある女の子の霊と会話していたんですよ」

「へえ……」

僕「あ、雨の降った日にね、校庭に水溜まりができると……そこに彼女はいるんですよ」

「まあ、そうなんですか」

僕「ええ、不思議なアイテムを付けてからはずっと彼女が見えるようになったんですが……なんともですね」



177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 04:03:19.69 ID:FpeXKyf/O
「アイテムだなんて、まるでゲームみたいですね」

僕「ええ、僕も不思議だったんですけどね……雪の中を掘ってたらいきなり見つけちゃいまして」

「まあ……」

僕「それでですね、その見つけたアイテムって言うのがですね……」

「ふふっ、知ってますよ。ピンクの……ヘアピンでしょう?」

僕「!」

「……よかったわね、先生はちゃんと覚えてくれてたわよ」

『うん……ありがとう、僕ちゃん……』

僕「あ!」

久しぶりに会った彼女は、どこか疲れた様子で女先生の後ろに現れた。

少しだけ……顔色が悪くなったような気がした。



178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 04:08:20.28 ID:FpeXKyf/O
僕「ひ、久しぶりだな。少し探したけれど……見つからなかったから。心配したぞ」

「……この子はずっと隠れていたんですよ。誰かに会っても悪さをしないように」

『……』

僕「え……」

彼女が、悪さを?

僕「そ、そんな事言ったってこの子は悪さをするような子じゃあ……」

『僕ちゃん、もういい……もういいんだよ』

僕「何言ってるんだよ、こうしてまた会えたんだから。一緒にベランダにでも出て……」

「先生。一週間後の放課後、三年生の教室に来て下さい。お願いしますね」

僕「一週間後って、それは実習期間が終わる日じゃないですか!」



179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 04:10:38.84 ID:FpeXKyf/O
「では、失礼します」

『……』

僕「あ、ち、ちょっと!」

結局、それから女先生は何も話してくれなくなり、彼女もどこかへ消えてしまった。

そして、何も状況が変わらないまま一週間が過ぎた。

……教室には既に二人の姿があった。



180 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 04:13:39.82 ID:+HTzHRHB0
どうなるんだ


181 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 04:17:20.05 ID:FpeXKyf/O
僕「……」

「来てくれたんですね」

『……』

僕「どういう事か、説明してくれませんか。これじゃあ彼女が可愛そうですよ」

「……残念ですけど、彼女には限界が近付いています」

僕「!」

「わかりやすく言いますと、もう精神が持たないんです。このままの状態で放っておけば、もっと強力な地縛霊になってしまいます……」

僕「……治す方法はないんですか」

「もう手遅れです。彼女にとって三十年近い孤独は辛すぎたんでしょう、むしろよく持ったと言う……」

僕「じゃあ、孤独じゃなければいいんでしょう。僕がまた、昔みたいに毎日一緒に……」

「だから……もう手遅れなんですよ。あなたにはこの辛そうな顔が見えないんですか」



182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 04:25:32.80 ID:FpeXKyf/O
『……えへへっ』

僕「……」

僕「無理に、笑わないの」

『あ、あれっ。おかしいな……これで騙せてた時あったのに……やっぱり大人になっちゃったんだね、えへへっ』

僕「だから……無理して笑うなよ!

『……!』」

「このっ……大馬鹿野郎!」

ピシィィン、と……教室に頬と手のひらが強烈にぶつかる音がした。

本気で彼女は僕を殴ったのだ。

僕「……」

「この子は……あなたのためだけにこうして笑っているんですよ。それもわからないで、何が無理して笑うなですか!」



183 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 04:32:57.18 ID:FpeXKyf/O
「私のヘアピンを紡いでくれた人だから、どんな人かと思ってみれば……こんな自己中男だったなんて!」

僕「……」

『先生……違う』

僕(本当の事は、言わなくていいから……)

「……離しなさい。この人にはもう喋る事は何もありませんから、帰ってもらい……」

『違う、違う、違うよ……僕ちゃんは怒ったんじゃないよ』

僕(そんな風に言われたら)

僕「……ぐっ、ぐすっ……」

「な、なんで怒って泣くの」

『違うよ……。ちょっと意地っ張りで、素直に心配が言えなくて……でもすごく私の事を気にしてくれた』

『だから、僕ちゃんは今泣いてるんだよ……』



184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 04:37:36.40 ID:FpeXKyf/O
僕「ごめん……ね……」

僕は、いつかの雪の日みたいに謝っていた。

あの日より、もっと大きな後悔が僕の胸を満たしていた。

『ううん、私はそういう存在ざもん。いつかは必ず……ダメになっちゃうから』

僕「ぐっ……で、でもっ……」

『いいんだよ、言ったでしょ。私は幸せだったもん。たくさん僕ちゃんとお話して、ベランダからお外を見て……だから私は今まで大丈夫だったんだよ』

僕「ぼくが……いればっ……もっ、と、ぐすっ、大丈夫に……」

『……それじゃあダメだよ』



185 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 04:44:12.05 ID:FQD0to/c0
見てんよ


186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 04:44:37.39 ID:FpeXKyf/O
僕「ダメな事……なんてっ……!」

『ダメだよ。私と一緒にいたら……僕ちゃん先生になれないもん。だから、私はこれでいいんだよ』

僕「でも、でも……」

『そんな、子供みたいに泣かないで……私だって……私だって……』

僕「……ふ、ふふっ、泣くの飽きたなんてう、嘘ばっか」

『無理して、笑っちゃダメ……辛そうな僕ちゃん、見たくないよ……』

彼女がそんな事を言うから、僕はまた大きく泣いてしまった。

涙で呼吸が出来なくなる感覚を……僕は何年か振りに体験する事になった。

窓の外では、そろそろ夕日が山の向こうに消えようとしていた。



187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 04:50:36.05 ID:FpeXKyf/O
「……」

『ありがとう先生、もう大丈夫ですから』

僕「……お願いします」

「その前に、謝らせてね。何もわかっていなかったのは私の方だったわね……本当にごめんなさい」

僕「いえ、そんな」

『ふふっ、大丈夫ですよ』

「……ねえ先生、どうして私が彼女に直接ヘアピンを渡さなかったか、わかりますか?」

僕「え?」

「私と彼女がお別れする際に、私は校庭にヘアピンを置いていきました、それは知ってますよね」

僕「ええ、それはわかりますよ。なんでそんな周りくどい事を……」

「率直に言うと、彼女に刺激を与えすぎて欲しくなかったんです」



188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 04:55:17.97 ID:FpeXKyf/O
「ヘアピンの力で、誰かと接触して会話をするようになって……それが悪い方向に働くのが怖かったんです」

「気持ちは敏感ですから……ちょっとした事で何が起こるかわかりませんから、ね」

僕「……確かに、僕は出入口の鍵を閉められたくらいで済みましたが」

「運やタイミングが悪ければ……という話です。でも、先生みたいな人がヘアピンを見つけてくれて本当によかったですよ」

「本当にありがとうございました」

『私からも、ありがとう。僕ちゃん』

僕「……」

僕「ああ、どういたしまして」

『ふふふっ』

「……さて、ではそろそろ」

僕「……はい」

『はい』



189 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:01:49.16 ID:FpeXKyf/O
『あ、あの先生。このヘアピン、貰ってもいいですか』

「……いいわ、好きにしなさい」

『ふふっ、ありがとうございます』

「もう、いいかしら。先生も何かありますか?」

僕「今まで、ありがとう……」

『えへへっ……うん、ありがとう』

彼女の顔が、名残惜しそうな笑顔を作った。

「じゃあ……いきます」

女先生が、彼女の額に手をあてた。

すると……体が一瞬だけ白く光り出した。

僕(これで……お別れか)

『……まだ』

僕(……?)

『ま、だ……最後に……』



190 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:05:20.36 ID:FpeXKyf/O
僕「な……なあ……」

『?』

光の中の彼女は、涼しそうな顔で僕を見ている。

おかしい、さっき聞こえた彼女の声は気のせいだろうか。

『……えへへっ』

彼女は、光ながらも僕に優しく微笑んだ。

僕(なんだ、やっぱり聞き間違え……)

『やだ……まだ、最後に』

僕(聞き間違え……なんかじゃない)




191 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:10:01.58 ID:FpeXKyf/O
『まだ最後に……一番……』

ここまでは聞こえる。

でも、これ以上は……彼女の顔を見ても何もわからない。

ただ僕に向かって、微笑んでいるだけだ。

僕(違う……わかっているのに)

あの笑顔が本当の笑顔では無いことを、僕はわかってしまっている。

だからこそ、どうして彼女の本音を知りたかった。



192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:12:51.25 ID:FpeXKyf/O
僕(彼女はいつもそうだ……)

僕(遠くのベランダから僕を見つけて。僕も校庭の水溜まりから彼女を見つけて……)

僕(……水溜まり?)

僕は、先ほどまで僕たち二人が座り込んでいた床を見つめた。

そこにはうっすらと……二人の涙が床に膜を作っているようだった。

僕(あ……見つけた)

『うん……』

その水溜まりの中の彼女は……僕に向かって、こう言っていた。

『最後に……一番言って欲しかった事。私の事を……』


僕「ああ……好きだよ、大好きだ」



193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:17:14.36 ID:FpeXKyf/O
『ありがとう……僕ちゃん』

水溜まりの中の彼女も、教室にいた彼女も……白い光に包まれて、ゆっくりと消えていった。

もう彼女の姿は、どこにも見えなかった。

「……ふう、これで彼女は大丈夫ですよ。成仏して、もしかしたらまた私たちの前に……」

僕「ああ、先生。すいませんけど一人にしてください。鍵は僕が閉めていきますので」

先生の言葉を遮り、僕は一人ベランダに出ていった。

後ろで、小さく彼女がお辞儀したのが見えた。

僕は……まだ沈まない夕焼けが照らす、小学校の校庭を見つめていた。



194 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:20:40.17 ID:FpeXKyf/O
彼女は、ずっと一人でこの光景を見ていたんだろう。

三十年近くも、一人で。

僕「……」

僕は、ベランダと教室の戸締まりを済ませ、何も言えないまま教室を後にした。

実習期間が終わった僕たちは、それぞれの大学に戻って行った。

縁があればまた会える、と女先生は僕の前から消えてしまった。

あれから先生には会っていない。



195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:25:40.51 ID:FpeXKyf/O
そして僕はというと、めでたく地元の小学校に教員として就職する事が出来た。

故郷に戻り、一番にお祝いに駆けつけてくれたのは女と大将だった。

女も大将も、地元の大学に通い就職活動をしていたようで……。

正直、小学校時代に僕をいじめていた大将がお祝いしてくれたのは少し意外だったが……まあ、みんな大人になったという事だろう。



196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:26:26.12 ID:wgtYzC/o0
みてるよ。


197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:29:07.97 ID:FpeXKyf/O
女も女で、僕が地元に帰ると連絡した時とても喜んでくれていた。

女「こっちに来たら、駄菓子屋に付き合ってあげてもいいわよ?」

僕「……甘いのは苦手じゃなかったの」

女「ふふっ、甘くない駄菓子を買えばいい事に気付いたのよ。あ、あとは中華まんも忘れないでね。新発売のフカヒレまんがね……」

地元に帰ってからも、僕と彼女の付き合いは続きそうだ。

空いた時間を埋めるように、周りの人間と付き合っていけたらいいな、と僕は思った。

そしてなにより……。

もう一度、彼女がいた小学校へ。



198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:36:34.67 ID:FpeXKyf/O
僕「え〜、皆さん初めまして。今日から三年生のクラスを担当する事になりました……」

始めての請け負いが、あの教室になった。

最初はちょっと戸惑ったが、元気な子供たちに囲まれて仕事をしていると……少しだけ色んな物が紛れる気がした。

僕は、このクラスをいいクラスにしようと必死で努力をした。

生活や授業態度はもちろん、提出物やイジメ問題まで。

もちろん、ただ口うるさく言うのではなく、子供たちに理解してもらおうと……色んな方法を試していた。

初めは失敗も多かったが、徐々にクラスのみんなも僕を信頼してくれるようになり……。

僕は問題の一つ一つを順調に片付けていった……のだが。



199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:38:11.88 ID:P9BNOYxGO



200 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:42:07.35 ID:+HTzHRHB0
おっ?まだ続くのか


201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:42:46.10 ID:FpeXKyf/O
ある時、クラスの輪から外れている女の子がいる、というのを生徒から教えてもらった。

ずっと大人しく、あまり目立たないタイプの子だっただけに……僕も生徒に言われるまで、その問題に気付かなかった。

彼女は、時間があればいつもベランダに出ては……遠くばかりを見つめていた。

クラスの活動には参加しているものの、休み時間までずっとあれじゃなあ、さすがに寂しいんじゃないかと僕は感じた。


ある日、放課後の会議を終えて教室に戻ると……例の女の子がまたベランダに出て外を見ていた。

いい機会だ、僕は彼女と話をしてみる事にした。



202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:42:47.93 ID:wgtYzC/o0
どうなるの?


203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:48:35.95 ID:FpeXKyf/O
「……」

僕「やっ。えっと、何を見てるのかな」

「……お外」

僕「そっか、何か面白い物見える?」

「うん、楽しいよ。こうやって、先生と一緒にお外を見られるんだもん」

なんだ結構、素直な子じゃないか。

クラスの輪に入れないなんて言うからどんな子かと思えば……。

「くすっ」

髪の毛の横を、ヘアピンでシンプルにまとめている。

顔立ちも可愛くて……間違いなくモテるタイプだ。

僕はもう少し話を聞いてみる事にした。



204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 05:55:04.86 ID:FpeXKyf/O
僕「はははっ、先生の事が好きかな」

「うんっ、好きだよ。大好きっ」

僕「あはは、ありがとうね」

子供にはありがちな、憧れの心理というものだろう。

僕はそこから更に話を広げてみた。

僕「ねえ、お外を見る以外に、何か好きな事はあるかな? 本を読んだりなわとびしたり……」

「私、七不思議のお話をするのが好き」

僕「七不思議、か。珍しいね、クラスのみんなはゲームとかサッカーとか……そういう話はもうあまり流行してないと思ったけど」

「私は好きよ、例えばね……美術室には床が血だらけになってる場所があるの」

僕「ああ、あれはただのペンキか絵の具が固まっただけだよ。血でもなんでもなかったよ」



205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 06:00:23.13 ID:FpeXKyf/O
「あ、調べたんだ?」

僕「昔、僕も子供だった時にね。懐かしいなあ、放課後の学校を走り回ったもんさ」

「ふ〜ん……じゃあ、家庭科室の消える包丁は?」

僕「家庭科の先生に聞いたら、最初から一本だけケースに入ってなかったって。業者のミスみたいだったよ」

「……まあ、小学校の噂なんてそんな物だよね」

僕「あ、でも僕はこんな話を知っているよ。実はね、水溜まりに映る少女の事なんだけど……」

会話が弾んだのが嬉しくて、僕はつい彼女の事を話し出してしまった。

これは僕が知っている不思議の中でも、一番大切な思い出だ。



206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 06:06:08.05 ID:FpeXKyf/O
「……へえ」

僕「不思議だろ。とっておきで、一番のお話さ」

「……本当に、不思議だね。じゃあ私もとっておきのお話してあげる」

「あのね、ある教室に青い筆箱を忘れた男がいたの。その子の名前は……仮に先生って事にするね」

僕「う、うん?」

「さっきまで遊んでいたお友達に置いてかれたので、その子はとてもビクビクしながら、校の中を歩いていたのでした……おしまい」

僕「え? え?」

「ぷっ、く……ふふっ、まだ気付かないの……」

僕「え? あ……」

「このヘアピン見せた時なんて、大ヒントだったのに〜。もう……相変わらず鈍いんだ」



207 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 06:11:18.31 ID:FpeXKyf/O
僕「いや、だって……まさか」

「そっか〜、私とのお話が一番の思い出なんだ、ふ〜ん」

僕「そ、そんなにニコニコした顔、今まで見たことないぞ」

「ふふっ、私って今は小学三年生だもん。嬉しいから笑えるんだもん」

僕「……」

「それに、この前大好きって言われちゃったし……さっきだって、私の事……」

僕「……まったく」

「ふふっ、大人になっても変わらないね。私を助けてくれた時と」



208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 06:15:23.93 ID:FpeXKyf/O
ああ、僕はようやく気が付いた。

彼女はまた、小学三年生になったのだ。

幽霊なんかじゃない、今度はちゃんとした……自分の体で。

「……あ、雨降りそうだよ」

僕「……帰るなら送ってくよ」
「本当に? ありがとう、先生大好き〜」

僕「こ、こら。変にベタベタしないの」

「本気でそう思ってる? あ、水溜まりで覗けば、先生の本音わかっちゃうかも……」

僕「僕はいつでも正直だから、そんな必要ないよ」

「……ふふっ、意地っ張り」

僕「か、帰るなら早くしなよ! 置いてくよ!」



209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 06:21:38.95 ID:FpeXKyf/O
「置いてくつもりなんて、ないくせに」

……ああ、彼女にはやっぱり全部お見通しらしい。

「私も、ちょっとからかい過ぎちゃったかも。謝るから……一緒に帰ろう?」

僕「……うん」

彼女の前では、僕は子供のまま……当時の小学三年生に戻ってしまう。

「ふふっ、一緒に行こうね」

僕はこれから、心の何処かが彼女と同じペースで成長していく……そんな気がした。

優しく握った、彼女の小さな左手からは確かに血の流れる音と暖かさを感じた。

「あ……ねえ。やっぱり先生じゃなくてさ」

僕「?」



210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 06:27:43.91 ID:FpeXKyf/O
「昔みたいに……呼んでもいいかな?」

僕「……」

「ダメ?」

僕「他の人がいるときは、絶対ダメ」

「うん、わかった。じゃあ……」

僕「うん……」

雨が降りだした。

僕たちは一つの傘に身を寄せて、水溜まりのできた校庭を歩いている。

もう、その水面に誰かが映る事はない。

僕らは手を繋いで、外の向こうだけを見つめ……歩いていた。


「ふふっ」

「ただいま、僕ちゃん」

雨はまだ、僕たちの足元に水溜まりを作っている。





211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 06:28:33.63 ID:FpeXKyf/O
終わりです、ありがとうございました。


216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 07:19:00.22 ID:N8yL8bAnO
乙〜
面白かったよ



217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 07:29:33.09 ID:75jMEKEK0
乙。

駄菓子好きだなw懐かしいわ。



218 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 09:18:15.10 ID:JEO7CIvt0

面白かったー



219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 09:27:56.86 ID:1hz9JQbT0
激しく乙
幽霊たんかわいすぎわろた

これでクリスマスとか気にせず眠れるわ



220 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:02:39.12 ID:wU7q4eMw0

心があたたまりました



221 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:09:58.19 ID:NwT4bdCm0
お疲れ様

良い話だった



222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:21:41.58 ID:CWsybKwH0
おつ。

楽しかった



223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 10:51:48.37 ID:KcEKf1HlO
つかまえてシリーズは全部読んでるはずだけど、これが一番よかった



224 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/24(金) 11:27:48.97 ID:+HTzHRHB0
おつ
今回もよかったよ





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