少女「水溜まりの校庭でつかまえて」
少女「水溜まりの校庭でつかまえて」
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 11:48:15.28 ID:fJ2jl6pYO
小学校のチャイムが鳴る。
放課後の掃除と帰りの会が終わり、あとは家に向かうだけ。
僕(雨が降りそう……)
窓の向こうには、灰色の雲。
早く帰ろうと、ランドセルを背負って教室を出ようとしたその時……背中から声をかけられた。
女「ねえ僕ちゃん」
僕「ひ……っ!」
女「そんなにビックリしないでよ。声が裏返っちゃって、あははっ」
僕「い、いきなり声をかけるから……」
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 11:48:15.28 ID:fJ2jl6pYO
小学校のチャイムが鳴る。
放課後の掃除と帰りの会が終わり、あとは家に向かうだけ。
僕(雨が降りそう……)
窓の向こうには、灰色の雲。
早く帰ろうと、ランドセルを背負って教室を出ようとしたその時……背中から声をかけられた。
女「ねえ僕ちゃん」
僕「ひ……っ!」
女「そんなにビックリしないでよ。声が裏返っちゃって、あははっ」
僕「い、いきなり声をかけるから……」
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 11:50:19.54 ID:DEzQeHaX0
期待してます。
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 11:56:05.08 ID:fJ2jl6pYO
女「ふふっ、そんなに怖がりなら誘わない方がよかったかな〜?」
僕「……何のこと?」
女「今から学校の中を探検しようって、友達と話していたの」
僕「探検って?」
女「あ、ただの探検じゃないよ。学校で噂されてる、七不思議を調べるんだよ!」
僕「七不思議……」
いくつか話は聞いた事がある。
が、僕はオカルトや怖い話が特別好きというわけではなかったので、話の内容までは覚えていない。
僕「ええっと、七不思議ってどんなのだっけ?」
女「んん〜と……私が聞いたのは」
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:04:39.91 ID:fJ2jl6pYO
女「校庭にある二宮金次郎像の薪の数が変わるとか……」
「え〜、私は薪の数を数えると呪われるって聞いたよ?」
「首の向きが変わるって聞いたけど……」
後ろで待機していたクラスメイトが、話に割って入ってきた。
「いや! 俺は金次郎の像が夜中に走り出すって聞いたぞ!」
大きな声が教室に響く。
クラスで一番やんちゃなガキ大将……イメージ的にはピッタリだ。
僕(……こういう話が好きだったんだ)
体も声も大きい彼が、こういう話を楽しそうに語っている姿は意外だった。
女「ね……もう四つくらい不思議が出ちゃってるんだよ」
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:13:32.35 ID:fJ2jl6pYO
僕「四つって、金次郎さんだけで?」
女「不思議でしょ?」
僕「う〜ん……」
女「他にもね、美術室の床に人の血が滴り落ちてるとか」
「誰もいない図書室で、勝手に本棚が動くとか」
「そうそう、家庭科室で包丁が無くなる事件とか……」
「お、俺も校庭で変な声を聞いたぞ!」
大将は、いちいち声がでかい。
女「ね、七不思議を一緒に調べない? 事件を解決して、学級新聞に書きたいんだよ〜」
僕「そう言えば女たちの班が係りだっけか?」
女「うん!」
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:19:01.61 ID:fJ2jl6pYO
女「だから一緒に調べようよ〜、ね? ね?」
僕「僕は班が違うけどいいの?」
女「……だって班のみんな帰っちゃうんだもん。怖い話や〜、って」
僕「……その新聞、本当に作れるの?」
女「みんな書くスペースは決まってるから、その点は大丈夫だよ」
僕「女一人で七不思議を調べたりはしないの?」
女「ひ、一人で学校歩くのはち、ちょっと……」
僕「怖いんだ?」
女「怖くなんかないですよ〜だ!」
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:24:07.28 ID:fJ2jl6pYO
僕「ふう〜ん」
女「あ、あんまりニヤニヤするならもう誘ってあげない……!」
「そうだな! 俺たちだけで十分だよ!」
「ええ〜、それもつまんないよ〜」
「いいじゃんいいじゃん」
女「い、いいの? 本当にもう僕ちゃん誘ってあげないよ!」
女の顔が、キッとこちらを向いた。
半分は泣きそうで……もう半分は、ただ友達と遊びたい、そんな顔をしてるように見えた。
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:24:54.52 ID:iXcxRn7jO
「小学校でつかまえて」しか見たことないな
結局どうなったのあれ
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:30:18.15 ID:fJ2jl6pYO
僕も、女の事は嫌いなわけじゃない。
本当に誘われなくなっても困る。
僕は、内心焦りながらも返事をした。
僕「で、でもさ学校を探検するのも面白いかもね〜」
声が上ずっている。
女「ぼ、僕ちゃんも……来る?」
僕「え、えっと、まずは何から調べるの。雨が降りそうだから、早く終わらせて帰ろうよ」
女「……えへへっ、じゃあまずはね……」
僕は、あえて「行く」という返事をしなかった。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:36:31.30 ID:fJ2jl6pYO
女「順番はね、私たち三年生の教室から近い順に見ていこうかなって思ってるの」
「そうだな! じゃあ最初は美術室だな!」
女「僕ちゃんもカバンなんて置いてさ、一緒に行こうよ」
僕「う、うん……」
その一言だけで、僕の顔は恥ずかしさで真っ赤になってしまった。
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:40:33.34 ID:fJ2jl6pYO
僕(……女と、一緒に学校を歩いてるんだ)
女「ほ、本当に血があったらどうしようね〜」
「大丈夫だよ! 俺がみんなを守るから!」
女「僕ちゃんは、血とか大丈夫?」
僕(なにが、大丈夫なんだろう……?)
女「……ふふっ」
僕(やっぱり、こう見ると女って……可愛い)
ちょっと気になっていた、クラスの可愛い子と……放課後の学校を歩く。
薄暗い廊下は、しんとしていて……僕たち以外は誰もいないような錯覚をする。
静かだ。
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:43:20.34 ID:afBSrIrZO
なんじゃこりゃあああっっ
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:44:55.33 ID:fJ2jl6pYO
女「じゃあ、行くよ」
美術室の扉が音を立てて開く。
中に入った瞬間、絵の具や画板などの木や塗料の匂いが僕たちに強く襲いかかる。
僕(う……)
僕はこの匂いが苦手だった。
女「じゃあ、早速調べよう。手分けして、何かあったら教えてね」
「お〜」
他のみんなは平気なようだった。
僕だけが頭を痛くしながら、適当に教室内の床を見て歩いていた。
床には……変わった所は何もない。
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:51:29.54 ID:fJ2jl6pYO
「う、うわああああっ!」
突然、教室の後ろの方で叫び声がした。
男友達が悲鳴をあげて、床を指差していた。
女「ど、どうしたの!」
「こ、こ、これ……ち、血……」
教室内に散っていたメンバーが、一斉に集る。
「うわあっ!」
「いやあっ!」
床を見ると、確かにそこには染みが出来ている。
赤々とした、大きな染みだ。
……しかしそれは不自然なくらいに赤い。
女「あれ、これって……」
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:57:17.56 ID:fJ2jl6pYO
女が、その赤を爪で剥がそうと床に手をついた。
「お、女ちゃん……だ、大丈夫?」
女「うん。だってこれ血じゃないもの」
「……え」
女「血だったらこんなにテカテカしてないよ。固まってる感じからして……絵の具じゃないかな?」
「絵の具〜?」
大将が、胡散臭げにその染みを見ている。
女「そうだよ。ほら、ここの棚に絵の具缶もあるしさ。きっと中身がこぼれて固まっちゃったんだよ」
「な、なんだ驚いて損しちゃった」
「女ちゃんすごい〜」
女「えへへっ」
僕(心の中じゃあ、僕のが先に気付いていたのに……)
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:05:57.65 ID:fJ2jl6pYO
女「あれが美術室の噂かなあ」
廊下は静かで、女の声だけが響き渡る。
僕「七不思議なんて、あんなもんだよ」
女「まだ調べる場所はたくさんあるよ! 図書室に音楽室……あ、体育館の噂もあってね……」
クラスメイトと放課後の学校を歩く……昼とはまた違って見える教室の景色。
誰もいない廊下、普段にもまして余計に寂しく見える理科室や音楽室。
そんな光景も、友達と一緒にいれば何も怖くなかった。
ただ学校の中を歩き回っているだけなのに、僕は今とてもワクワクしている。
20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:17:22.85 ID:fJ2jl6pYO
女「……結局、他の教室でも何もなかったね」
放課後の探検を終え、僕たちは教室に戻ってきていた。
みんながカバンを背負って帰る支度をしている。
僕も先ほど放り出したままのカバンを持ち、教室を出た。
「今日は何も発見がなかったね」
「あ〜、でも結構ドキドキしたよね」
女「次は体育館の鍵とか借りて、中を調べないとね」
僕「えっ、まだ調べるの?」
女「当たり前でしょ? 七不思議の噂をちゃんと調べて新聞にするんだから」
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:24:41.28 ID:fJ2jl6pYO
僕「はあ……まあみんなが行くなら僕も行くよ」
女「もう、またそんな天の邪鬼な事言う!」
僕「だ、だって七不思議なんて……本当にあるわけ……」
女「そんな事言うなら誘ってあげない! ふんっ!」
階段を勢いよく降りる彼女……踊り場を抜けてあっという間に一階まで行ってしまう。
「あ、待って待って〜」
「俺もいく〜」
女に続くように、友人たちも階段を駆け降りてしまう。
僕「ち、ちょっと! ま、待ってよ!」
暗い階段に、僕の声だけが響いた。
僕も急いでみんなを追いかける。
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:32:14.38 ID:fJ2jl6pYO
僕「はあ、はあ……」
女「ふんだ、置いてっちゃうからね〜だ」
玄関に着いた彼女たちは、すでに靴をはきかえて外に出られる状態だった。
その姿を見るだけで、僕は焦った。
僕「ま、待ってよ。置いてっちゃ嫌だよ」
玄関と廊下の境界線が、とても遠くに感じる。
口では強がっていてもやはり恐怖心はある。
急いで靴をはこうと、走り出した。
その瞬間……。
「……なあ」
今まで静かだった大将が、僕の方を見つめて話しかけてきた。
「七不思議の事だけどさ、俺一度だけ体験をした事があるんだ」
いきなり……何を言い出すんだ。
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:38:57.92 ID:fJ2jl6pYO
女「え、体験したの?」
女は興奮した様子で話に食いついた。
大将は淡々とした様子で語り出した。
「うん。三年生になって……夏休みに入る前かな、雨が降った日があってさ」
「俺、宿題のプリントを学校に忘れちゃってさ。気付いたのが一度家に帰ってからだったんだ」
「ちょうど今くらいの時間かな。まだ夏だから暗くはなかったけど、それでも一人で学校を歩くのは不気味でさ」
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:47:27.29 ID:fJ2jl6pYO
女「ま、まさか教室に幽霊が出たとか?」
「……プリントを持って、学校から出たんだ。ここまでは何もなかったよ」
女「学校から出たって事は……もしかして金次郎さんが動いたりとか!?」
「違うよ。普通に玄関前の階段を降りて、校庭を歩いていたよ」
僕「……それから?」
「雨でグシャグシャの校庭を歩いていると……いきなり女の子の声がしたんだ」
女「声?」
『……こんにちは、今から帰るの?』
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:54:31.23 ID:fJ2jl6pYO
僕「女の子の……声?」
女「誰かに声をかけられたの?」
「うん。でも、周りを見渡しても誰もいないんだよ……広い校庭には俺だけ、他に誰もいない」
僕「だ、誰か玄関で話していたとかでしょ?」
「玄関からは離れた場所だよ、校庭の……どの辺かは忘れたけど、真ん中あたり」
女「それ……本当?」
「嘘じゃないよ。怖くて調べてはないけど……声は聞いたよ」
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:59:03.53 ID:fJ2jl6pYO
僕「そ、そうなんだ……」
その話を聞いて、僕はなんだか怖くなってしまった。
噂だけならともかく、実際にそんな体験をした人が周りにいるとなると……
「ん? どうした、怖いのか?」
僕「ち、ちょっとだけ……」
正直に僕は答えた。
足がプルプルと震えている。
「……っ、ぷ……」
僕「?」
「ふ、あはははっ、そんなに怖がるなよ! 嘘に決まってるだろ、こんな話!」
僕「な……」
さっきとは変わって、玄関中に響く声で笑い出した大将。
「あ、足なんか震わせちゃって、ふ、ふふふっ……」
これ以上ないくらいに、笑っている。
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:05:09.18 ID:fJ2jl6pYO
僕「ま、まあ嘘なら嘘でもいいんだけどさ……」
「……ところでさ、机に筆箱を置きっぱなしじゃないかい、僕くん」
僕「え?」
「ほら、お気に入りのあの青い筆箱だよ。みんなに自慢してただろう?」
カバンを漁ってみると、確かに筆箱だけが入っていなかった。
ゴタゴタの中でしまい忘れたのか。
僕(う、うう、あれが無いとなんか不安……)
僕「と、取ってくる!」
「あっそ。じゃあ俺たちは帰るから。一人で頑張れよ!」
僕「……え? 誰もついてきてくれないの?」
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:10:26.19 ID:fJ2jl6pYO
女「教室くらいすぐだよ〜。僕ちゃんなら一人で大丈夫だよね?」
僕「う……」
女にそう言われたら、カッコつけないわけにはいかない。
僕「じ、じゃあちょっと行ってくるよ……」
「おう。じゃあまた明日な〜」
僕「せ、せめてここで待っててよ!」
「え、僕くんだけ帰る方向違うじゃん。だからここでバイバイするんだよ」
僕「そ、そんな……」
チラッと女の方を見てみる。
女「……あ、もうアニメが始まっちゃう」
一人玄関を出ていく彼女。
女「じゃあ、バイバイ〜」
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:17:24.42 ID:fJ2jl6pYO
僕「うう……」
結局、僕は一人で廊下と階段を引き返し……二階の教室まで歩いていた。
廊下は更に暗くなり、もう一番奥の方は見えなくなっている。
僕「早く帰らないと……」
三年生の教室に入り、電気をつける。
真っ白い光が教室を照らす。
僕「ああ、あった」
机の上には青い筆箱。
僕はそれを取るとカバンにしまい、しっかりと閉じた。
僕「……もうこんな時間」
黒板の上に設置してある時計を見た後、僕は窓の方へ目を向けた。
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:24:16.36 ID:fJ2jl6pYO
暗い空、そして……。
僕「あ、雨……」
いつの間にか降りだしていたのか、外では雨が力強く降っていた。
季節外れの夕立だろうか、すごい勢いで窓を叩いている雨水が印象的だ。
僕「……あ、女たちだ」
窓の向こう、教室から見える道では傘が四つ並んで歩いていた。
両脇に田んぼと畑が広がる、一本の道を早足で歩いていく。
僕(本当に、帰ってるや……)
僕も早く帰ろう。
そう思って教室の入り口に向かった瞬間……。
背中から、視線を感じた。
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:28:38.13 ID:fJ2jl6pYO
ビタッ、と。
入り口付近で固まってしまう。
明らかに、後ろに誰かがいる……ような気がした。
僕には霊感なんてないし、特別にオカルトが好きというわけではない。
それでも、背中から……教室の中か窓の向こう、ベランダから……視線を感じてしまった。
僕「……っ!」
僕は後ろを振り返らずに、一目散に教室から出ていった。
廊下を走り、階段を降りて……ようやく一階の玄関までたどり着いた。
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:34:45.82 ID:fJ2jl6pYO
僕(怖くない、怖くない!)
置き傘を探しながら、僕は心の中で必死に叫んでいた。
……やっと傘を見つけ、学校を飛び出した時は正直ホッとした。
暗く、閉鎖的な空間よりはよっぽど居心地がいい。
僕(早く、帰ろう……)
玄関前の階段を降りて校庭へ。
急な雨で地面はグシャグシャ、ちょっと歩いただけですぐに靴下まで濡れてしまった。
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:39:43.11 ID:fJ2jl6pYO
僕「うへえ……嫌だ嫌だ」
僕「……まあ、帰ればコタツとストーブで暖まって、あ、お風呂もいいよなあ」
体は冷たいながらも、僕は帰った時の事を想像して内心はウキウキしながら歩いていた。
雨はそんなに嫌いじゃない。
何より、寒い体を暖めてノンビリする……僕はそれが好きだった。
僕「今日の夕ご飯はなにかな〜」
そんな……ゆっくりとした気持ちで校庭を歩いていた。
彼女の声が聞こえてくるまでは。
『……わ』
僕「……え?」
聞こえた何かに、耳を傾けてみる。
『……』
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:43:47.36 ID:fJ2jl6pYO
なんだ、気のせいか……。
辺りを見回しても誰もいない。
もう一歩を踏み出そうとした瞬間……。
『……こんにちは、今から帰るの?』
僕「!」
今度ははっきりと聞こえた。
か細く、弱々しい声だけれども……雨音にかき消される事なく、はっきりと僕の耳に届いた。
『……ねえ、今から帰るの? 少し私とお話しない?』
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:48:31.84 ID:fJ2jl6pYO
お話……?
僕(ま、待ってよ、足がすくんで……喉も)
『ふふっ、そんなに怖がらなくていいのに。私、何も悪い事しないよ』
僕「あ、あ……」
ダメだ、校庭の真ん中で僕は立ち尽くしてしまった。
足が氷のように動かない。
靴下が水浸しでも、もう関係ない。
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:53:19.75 ID:fJ2jl6pYO
『そんなに……怖がらないでよ……ただ、お話したい……』
『それだけ、なのに』
僕「……?」
よく声を聞いてみると、確かに不思議な感じがした。
姿は見えないけれど、ただそれだけ。
『ねえ、お願いだから』
その声からは、純粋に僕と話したい……そんな印象しか受けなかった。
僕「き、君はだ、だれ?」
震えながらも精一杯に声を絞り出した。
ちゃんと聞こえてくれただろうか?
『! 私、私はね……!』
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:59:31.46 ID:fJ2jl6pYO
『私は……ただお話したいだけだよ』
興奮から一呼吸置いた後、落ち着いた返事がきた。
僕「え、えっと……怖くないよね?」
僕はまだ、落ち着けていないようだった。
『怖くないよ。ちょっと声かけたら、みんな逃げちゃうんだもん……もう、寂しいよ……』
僕「み、みんなって?」
『この学校の人。私がお話しても、誰も答えてくれなかったから……』
僕「は、話がわからないんだけど」
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:04:01.97 ID:fJ2jl6pYO
『ねえ、私と一緒にお話してくれる?』
どこからともなく声がしている。
悪意はなくても、気持ちのいい事ではない。
僕は思いきって提案をしてみた。
僕「……す、姿を見せてくれればいいよ」
『姿も何も、私はずっとここにいるよ』
僕「え? どこに?」
辺りを探しても、ただ校庭に雨が降っているだけ。
女の子の姿は見当たらない。
『もう、違うよ。そんな周りじゃなくて……教室のベランダ』
僕「ベランダ……?」
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:08:19.52 ID:fJ2jl6pYO
『うん、電気つけっぱなしの三年生の教室だよ』
僕「あ……」
どうやら学校から出る事に夢中で、教室の電気を消し忘れてしまったらしい。
二階では一つだけ、電気のついた三年生の教室が目立っている。
そのベランダを見てみると……。
僕「……いないよ」
『……』
僕「そんな嘘はいいからさ、早く姿を見せてよ」
話せる分だけ、僕も少し強気になっていた。
『う、嘘じゃないよ……私、ずっとずっとここにいたんだもん……』
女の子の声が、少し泣き出しそうになっていた。
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:14:34.72 ID:fJ2jl6pYO
僕「で、でも実際姿見えないよ? なにか証拠でもないと信じられな……」
『さっき、帰る前に女ちゃんに呼び止められて学校探検してた』
僕「な、なんでそれを知って……」
『ずっといるんだから、わかるよ。君の名前も、今日の給食のメニューも』
僕「で、でもそれだけなら……」
『……青い筆箱、机に忘れてた』
僕「!」
『窓から外見て、帰る友達見ていた』
僕「そ、それはさっきの」
『ずっと見てたもん、私にはわかるんだもん』
『ここに……ずっといるんだもん』
ヤバい、さらに泣き出しそうなくらい弱い声になっている。
42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:20:22.64 ID:fJ2jl6pYO
僕「姿を現す事はできないの?」
『知らない、そんなの。私はここにいるんだもん』
僕「うう〜ん……」
こっちからすると、姿が見えないのは不安で仕方がない。
『お話……』
いくら声が聞こえるから……って?
声が聞こえる?
僕「あ、あのさ」
『ん〜』
僕「君は、今どこにいるの?」
『ベランダだよ〜……三年生の教室の』
僕「じゃあ……どうして君の声が僕に聞こえるの?」
『え?』
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:26:08.49 ID:fJ2jl6pYO
僕「だって僕、校庭の真ん中……ううん、校舎から見れば奥の方にいるんだよ?」
『うん、見えてるよ〜』
僕「普通はこんな声なんて聞こえないよ、雨だって降っているのに」
『……でも、声が届いた人はみんなその辺にいたもん。話したいな〜って声かけたら聞こえたんだもん』
僕「この辺に?」
周りを見てみるけれども……この辺りには遊具なんて何もない。
ただ景色が開けている、普通の校庭の一部でしかない。
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:33:16.25 ID:fJ2jl6pYO
僕「……」
雨は相変わらず、強く降っている。
校庭の土を叩いては、いくつもの水溜まりを作って……。
僕(あ、水溜まりが光ってる)
目の前の先……数歩分くらいの距離にある水溜まりが、なぜか白い光を放っていた。
しかし、それは何も不思議な光ではなかった。
僕(……ああ、教室の電気か)
水溜まりの中に、僕が消し忘れた教室の光が反射している。
僕は、その水溜まりをボーッと見つめていた。
45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:38:08.99 ID:fJ2jl6pYO
『……』
僕(……あ)
白い光のある場所には、当然教室とベランダが映っている。
僕(だって、あれ?)
顔を上げて、実際の教室の方を見てみる。
僕(……いない)
再び、水溜まりの光に目をやると……白い光が素直に僕の目に入ってこない。
どうしても、光の前に一つだけ影が入ってしまっている。
それは、小さな女の子の影のように見えた。
彼女は、ベランダの手すりに頬っぺたをくっつけ突っ伏していた。
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:45:18.36 ID:fJ2jl6pYO
僕「ねえ、今手すりにくっついてる?」
『え? う、うん。一応』
言葉と一緒に、水溜まりの中の影が顔を起こしたように見えた。
僕は少し興奮しながら、また彼女に話しかけた。
僕「あ、今体まっすぐにしたでしょ?」
『……見えるの?』
僕「見えるよ、教室のベランダにいる。真っ白いワンピース着てて……」
雨はもうそんなに強く降っていない。
水面に反射したベランダ……水溜まりの中に、僕は彼女を見つける事が出来た。
僕が本当の不思議に出会った瞬間だった。
49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:52:40.92 ID:fJ2jl6pYO
パッ。
僕「あ……」
僕が彼女を見つけた瞬間、教室の電気が消されてしまった。
『先生来て、消されちゃったよ』
僕「そっか、まあ当たり前かな」
『もう私見えない?』
僕「……いや、見えるよ」
光がなくなっても、水溜まりの中に彼女はいた。
僕「まだ一階職員室の明かりがついているから、余裕だよ」
『ふふっ、よかった』
笑う彼女の声を聞いて、なんだか僕まで嬉しくなってしまった。
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:53:17.62 ID:wDPipLSS0
このスレだけは保守するぜ
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:57:28.61 ID:fJ2jl6pYO
光が無くても、ベランダにいる彼女はよく見えた。
僕(水溜まりがこんなに映像を反射するものだとは思わなかったな……)
『えへへっ、なんとなくわかったよ』
僕「ん? 何?」
『その水溜まり……私が映ってる距離と僕ちゃんがいる距離は近いでしょ?』
いつの間にか、名前で呼ばれてしまっている。
『だから、お話できるんだよ。私って天才〜』
僕「……ぷ、ふふっ」
『な、なによ。何かおかしい事言った〜?』
僕「い、いや、ずいぶんお茶目な性格なんだな〜って、くくっ」
53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:03:40.64 ID:fJ2jl6pYO
僕「さっき話しかけられた時は怖かったけど……」
『悪いことなんてしないって言ってるのに……』
僕「姿が見えなかったからね。今はちゃんと……あ、今髪の毛いじったでしょ」
『っ! べ、別に女の子だからいいんだもん! 悪い!?』
僕「わ、悪いなんて言ってないよ。ちゃんと見えてるんだからさ……ほら、お話しようよ」
『……』
僕「あれ、ダメ?」
『……もう、お家帰る時間でしょ』
彼女がそう言うと.学校のチャイムが校庭に鳴り響いた。
僕「こんな時間にチャイムが鳴るんだ」
『これが最後のチャイムだよ。冬はみんな早く帰っちゃうから……』
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:08:29.46 ID:fJ2jl6pYO
空もすっかり暗くなっている。
職員室の明かりだけが、弱々しく学校に一つだけ灯っている。
僕「僕もそろそろ帰らないと」
『うん……今日はありがとう』
僕「また会えるよね?」
『私はずっとここにいるよ。授業中も、給食の時間も、放課後も……』
僕「あ、そっか、じゃあいつでも会えるんだね」
僕は少しだけ嬉し楽しい気分になった。
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:12:08.82 ID:fJ2jl6pYO
『……どうだろうね』
僕「?」
彼女の声は、どこか沈んでいるように思えた。
僕「あ、あのさ……」
僕が話しかけた瞬間、職員室の明かりが消えた。
僕「あ……」
『また今度会えたらいいね、バイバイ僕ちゃん』
僕「ねえ……ねえ」
『……』
水溜まりに言葉を投げ掛けても、もう返事は来なかった。
光が全くない状態では、水溜まりの中を見る事もできない。
僕「……またね」
56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:19:26.76 ID:fJ2jl6pYO
真っ黒い地面にお別れの挨拶をして、僕は学校を後にした。
僕(……)
放課後に学校を探検した事。
噂の女の子に会って、会話をした事。
そして彼女の姿を見つけてしまった事。
僕(明日もまた会えるよね……ずっとあの場所にいるんだから)
しばらく歩き、遠くの道から僕はベランダを見つめた。
彼女がいる場所に向かって、大きく手を振った。
『うん。また……ね』
ベランダでは、少女が小さく手を振っている。
僕は背中に何も感じないまま、家までの道を走っていった。
58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:33:12.02 ID:fJ2jl6pYO
翌日の放課後。
僕「ねえ女ちゃん」
女「ん、どうしたの〜?」
僕「今日は七不思議の調査しないの?」
女「……あんまり新しい噂がなくてさ〜。体育館だって授業の時調べたけど、別に何もなかったし」
僕「へへっ、じゃあ僕が一つ教えてあげるよ」
女「え?」
僕「一つ、不思議が見える場所を知ってるんだ!」
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:33:24.18 ID:wDPipLSS0
なんかなける。てかこれ続く?結構楽しみなんだか
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:38:27.20 ID:fJ2jl6pYO
女「……ここ?」
僕は彼女を、昨日の水溜まりがあった辺りまで連れてきていた。
今朝は晴天だったせいか、水溜まりは無く地面が少し湿っている……くらいの印象だ。
女「……本当に、ここでその子と話せるの?」
僕「うん。昨日話したもの」
女「で、肝心のその子はどこにいるの?」
僕「ん……えっと」
僕は水溜まりのあった場所を指差した。
僕「昨日はここにいたよ」
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:43:27.74 ID:y3ZdiGQZ0
つかまえての人か
今回も楽しみにしてる
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:43:51.07 ID:fJ2jl6pYO
女「ここにいたって……地面から出てきたの?」
僕「違うよ、水溜まりの中にいるの。本当は三年生のベランダにいるんだけど……」
女「えっ、私たちの教室の所?」
彼女は、二階のベランダをパッと見つめた。
僕もその動きに釣られて同じ場所を見た。
でも、そこは昨日と同じで何も見えなかった。
女「……いないじゃん」
僕「だから、昨日は水溜まりの中で……あれ?」
一晩あけて頭の整理が出来ていないのか……うまく、説明が出来ない。
僕(他の人にわかるように説明するのって、難しい……)
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:48:06.73 ID:fJ2jl6pYO
僕「あ、そ、そうだ」
思い出したように、僕は水溜まりのあった場所に話しかけてみた。
僕「ね、ねえ。来たよ、こんにちは」
……。
昨日聞こえた声は返ってこない。
僕「あ、あれ?」
女「もう、協力してくれるのは嬉しいけどさ。あんまり変な噂は流しちゃダメだよ〜」
あはは〜と、彼女は軽く笑っている。
僕「べ、別にそういうつもりじゃないよ」
しかし、声が聞こえない以上はただのイタズラになってしまう。
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:57:24.60 ID:fJ2jl6pYO
女「ふふっ、優しいね僕ちゃんは。そんなに気にしないでいいのに」
僕「でも……」
本当に彼女はいるんだ。
女「大丈夫だよ、不思議が見つからなくても新聞は作れるんだからさ」
僕「……」
結局、その後も声をかけてみたけれど反応はなかった。
あの女の子は、ずっと同じ場所にいると言ったのに。
たまたま、あの場所から離れていたんだろうか。
それとも今日は話したくない気分だったのだろうか。
僕たちが帰路についたのは、ちょうど夕空に一番星が光った頃の時間だった。
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 18:25:36.88 ID:xJMl0LRD0
ほ
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 18:57:11.78 ID:q798NYZ90
>>1をまっていた!
これでクリスマスもかつる!
72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:36:25.54 ID:LF+obaG10
ええいまだか
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:38:07.57 ID:fJ2jl6pYO
僕「ね、ねえどこいくの?」
女「いいからついてきて〜」
学校を後にした僕たちは、もう夜になりそうな帰り道を歩いていた。
僕が、付き合わせたお詫びに近くの駄菓子屋で何か奢るよ、と言ったら……。
女「……あ、それだったらついてきてよ」
僕(言われるままについてきたけれども)
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:43:27.24 ID:fJ2jl6pYO
僕はいつもと違う道を通って、家に向かって歩いている。
狭い路地や、竹林に囲まれた敷地の横を抜けて……彼女の後ろにくっついていた。
僕(方角は合ってるけど、ちょっと回り道だよ……)
女「あ、ほらついたよ、ここ」
狭い道を抜けると、車が走る大通りに出た。
僕「ここって、コンビニ?」
女「そうだよ。私、ここで食べたい物があるんだ」
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:44:02.10 ID:+3Xj03jd0
ん
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:49:03.49 ID:fJ2jl6pYO
お店に入ると……真っ白な電気とヒーターの匂いが僕たちを包んだ。
僕「あったかい」
女「あ、僕ちゃんお金いくら持ってる?」
僕「んと、50円」
もともとは駄菓子屋で使う予定だったお金だ、コンビニで買い物をするには少し頼りない。
女「ふふっ、よかったちょうど、それくらいで」
彼女的には都合がいいらしい。
女「すいません、肉まん一つ下さい〜」
レジの前で、彼女は中華まんの入っているケースを指差して言った。
僕「……食べたいのって肉まんだったんだ」
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:54:50.21 ID:fJ2jl6pYO
お金を半分づつ払った僕たちは、コンビニの外でさっき買った肉まんを分けあった。
女「はい、半分あげる」
僕「あ、ありがとう……」
美味しそうな湯気が出ている。
冷めないうちに口に運んでしまおうと、僕は肉まんにかぶり付いた。
僕「ぱく……美味し」
女「ふふっ、温かくて美味しいね〜」
僕「これが食べたい物?」
女「そうだよ、冬はこういう食べ物の方が幸せになれる気がする」
二口、三口で半分の肉まんはどんどん小さくなっていく。
温かいけれど、男の子の僕には少し足りない量だった。
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:58:41.13 ID:fJ2jl6pYO
女「ごちそうさま」
僕「……ごちそうさま」
ゴミを捨てて、僕と彼女は向き合う形になった。
そろそろお別れの時間だ。
僕「肉まん、ありがとうね」
なぜかお礼を言ってしまう。
女「うん、美味しかったよ!」
お腹がふくれたせいか、彼女は元気に返事をした。
僕は、少しだけ水溜まりの中の少女の事を考えた。
僕(あの子も温かい物は好きなのかな……)
次にあったら聞いてみよう。
女「じゃあ、またね」
僕「うん、バイバイ」
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 20:04:34.83 ID:fJ2jl6pYO
『えっ、好きな食べ物?』
次に彼女に会えたのは、12月に入ってすぐの辺りだった。
校庭を歩いていると、久しぶりな声が聞こえてきて……。
この日も雨が降っていた。
水溜まりの中には、変わらない様子の彼女が見えた。
僕「うん、何が好きかなって思って」
『……あんまり覚えてないや。最近ご飯だって食べないし』
僕「そう、なんだ」
『うん……』
帰りのコンビニ思い付いた、この話題はあまり良くなかったらしい。
水の中の彼女が、ちょっとふて腐れた様子で手すりにもたれ掛かっている。
期待してます。
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 11:56:05.08 ID:fJ2jl6pYO
女「ふふっ、そんなに怖がりなら誘わない方がよかったかな〜?」
僕「……何のこと?」
女「今から学校の中を探検しようって、友達と話していたの」
僕「探検って?」
女「あ、ただの探検じゃないよ。学校で噂されてる、七不思議を調べるんだよ!」
僕「七不思議……」
いくつか話は聞いた事がある。
が、僕はオカルトや怖い話が特別好きというわけではなかったので、話の内容までは覚えていない。
僕「ええっと、七不思議ってどんなのだっけ?」
女「んん〜と……私が聞いたのは」
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:04:39.91 ID:fJ2jl6pYO
女「校庭にある二宮金次郎像の薪の数が変わるとか……」
「え〜、私は薪の数を数えると呪われるって聞いたよ?」
「首の向きが変わるって聞いたけど……」
後ろで待機していたクラスメイトが、話に割って入ってきた。
「いや! 俺は金次郎の像が夜中に走り出すって聞いたぞ!」
大きな声が教室に響く。
クラスで一番やんちゃなガキ大将……イメージ的にはピッタリだ。
僕(……こういう話が好きだったんだ)
体も声も大きい彼が、こういう話を楽しそうに語っている姿は意外だった。
女「ね……もう四つくらい不思議が出ちゃってるんだよ」
8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:13:32.35 ID:fJ2jl6pYO
僕「四つって、金次郎さんだけで?」
女「不思議でしょ?」
僕「う〜ん……」
女「他にもね、美術室の床に人の血が滴り落ちてるとか」
「誰もいない図書室で、勝手に本棚が動くとか」
「そうそう、家庭科室で包丁が無くなる事件とか……」
「お、俺も校庭で変な声を聞いたぞ!」
大将は、いちいち声がでかい。
女「ね、七不思議を一緒に調べない? 事件を解決して、学級新聞に書きたいんだよ〜」
僕「そう言えば女たちの班が係りだっけか?」
女「うん!」
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:19:01.61 ID:fJ2jl6pYO
女「だから一緒に調べようよ〜、ね? ね?」
僕「僕は班が違うけどいいの?」
女「……だって班のみんな帰っちゃうんだもん。怖い話や〜、って」
僕「……その新聞、本当に作れるの?」
女「みんな書くスペースは決まってるから、その点は大丈夫だよ」
僕「女一人で七不思議を調べたりはしないの?」
女「ひ、一人で学校歩くのはち、ちょっと……」
僕「怖いんだ?」
女「怖くなんかないですよ〜だ!」
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:24:07.28 ID:fJ2jl6pYO
僕「ふう〜ん」
女「あ、あんまりニヤニヤするならもう誘ってあげない……!」
「そうだな! 俺たちだけで十分だよ!」
「ええ〜、それもつまんないよ〜」
「いいじゃんいいじゃん」
女「い、いいの? 本当にもう僕ちゃん誘ってあげないよ!」
女の顔が、キッとこちらを向いた。
半分は泣きそうで……もう半分は、ただ友達と遊びたい、そんな顔をしてるように見えた。
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:24:54.52 ID:iXcxRn7jO
「小学校でつかまえて」しか見たことないな
結局どうなったのあれ
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:30:18.15 ID:fJ2jl6pYO
僕も、女の事は嫌いなわけじゃない。
本当に誘われなくなっても困る。
僕は、内心焦りながらも返事をした。
僕「で、でもさ学校を探検するのも面白いかもね〜」
声が上ずっている。
女「ぼ、僕ちゃんも……来る?」
僕「え、えっと、まずは何から調べるの。雨が降りそうだから、早く終わらせて帰ろうよ」
女「……えへへっ、じゃあまずはね……」
僕は、あえて「行く」という返事をしなかった。
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:36:31.30 ID:fJ2jl6pYO
女「順番はね、私たち三年生の教室から近い順に見ていこうかなって思ってるの」
「そうだな! じゃあ最初は美術室だな!」
女「僕ちゃんもカバンなんて置いてさ、一緒に行こうよ」
僕「う、うん……」
その一言だけで、僕の顔は恥ずかしさで真っ赤になってしまった。
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:40:33.34 ID:fJ2jl6pYO
僕(……女と、一緒に学校を歩いてるんだ)
女「ほ、本当に血があったらどうしようね〜」
「大丈夫だよ! 俺がみんなを守るから!」
女「僕ちゃんは、血とか大丈夫?」
僕(なにが、大丈夫なんだろう……?)
女「……ふふっ」
僕(やっぱり、こう見ると女って……可愛い)
ちょっと気になっていた、クラスの可愛い子と……放課後の学校を歩く。
薄暗い廊下は、しんとしていて……僕たち以外は誰もいないような錯覚をする。
静かだ。
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:43:20.34 ID:afBSrIrZO
なんじゃこりゃあああっっ
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:44:55.33 ID:fJ2jl6pYO
女「じゃあ、行くよ」
美術室の扉が音を立てて開く。
中に入った瞬間、絵の具や画板などの木や塗料の匂いが僕たちに強く襲いかかる。
僕(う……)
僕はこの匂いが苦手だった。
女「じゃあ、早速調べよう。手分けして、何かあったら教えてね」
「お〜」
他のみんなは平気なようだった。
僕だけが頭を痛くしながら、適当に教室内の床を見て歩いていた。
床には……変わった所は何もない。
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:51:29.54 ID:fJ2jl6pYO
「う、うわああああっ!」
突然、教室の後ろの方で叫び声がした。
男友達が悲鳴をあげて、床を指差していた。
女「ど、どうしたの!」
「こ、こ、これ……ち、血……」
教室内に散っていたメンバーが、一斉に集る。
「うわあっ!」
「いやあっ!」
床を見ると、確かにそこには染みが出来ている。
赤々とした、大きな染みだ。
……しかしそれは不自然なくらいに赤い。
女「あれ、これって……」
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 12:57:17.56 ID:fJ2jl6pYO
女が、その赤を爪で剥がそうと床に手をついた。
「お、女ちゃん……だ、大丈夫?」
女「うん。だってこれ血じゃないもの」
「……え」
女「血だったらこんなにテカテカしてないよ。固まってる感じからして……絵の具じゃないかな?」
「絵の具〜?」
大将が、胡散臭げにその染みを見ている。
女「そうだよ。ほら、ここの棚に絵の具缶もあるしさ。きっと中身がこぼれて固まっちゃったんだよ」
「な、なんだ驚いて損しちゃった」
「女ちゃんすごい〜」
女「えへへっ」
僕(心の中じゃあ、僕のが先に気付いていたのに……)
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:05:57.65 ID:fJ2jl6pYO
女「あれが美術室の噂かなあ」
廊下は静かで、女の声だけが響き渡る。
僕「七不思議なんて、あんなもんだよ」
女「まだ調べる場所はたくさんあるよ! 図書室に音楽室……あ、体育館の噂もあってね……」
クラスメイトと放課後の学校を歩く……昼とはまた違って見える教室の景色。
誰もいない廊下、普段にもまして余計に寂しく見える理科室や音楽室。
そんな光景も、友達と一緒にいれば何も怖くなかった。
ただ学校の中を歩き回っているだけなのに、僕は今とてもワクワクしている。
20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:17:22.85 ID:fJ2jl6pYO
女「……結局、他の教室でも何もなかったね」
放課後の探検を終え、僕たちは教室に戻ってきていた。
みんながカバンを背負って帰る支度をしている。
僕も先ほど放り出したままのカバンを持ち、教室を出た。
「今日は何も発見がなかったね」
「あ〜、でも結構ドキドキしたよね」
女「次は体育館の鍵とか借りて、中を調べないとね」
僕「えっ、まだ調べるの?」
女「当たり前でしょ? 七不思議の噂をちゃんと調べて新聞にするんだから」
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:24:41.28 ID:fJ2jl6pYO
僕「はあ……まあみんなが行くなら僕も行くよ」
女「もう、またそんな天の邪鬼な事言う!」
僕「だ、だって七不思議なんて……本当にあるわけ……」
女「そんな事言うなら誘ってあげない! ふんっ!」
階段を勢いよく降りる彼女……踊り場を抜けてあっという間に一階まで行ってしまう。
「あ、待って待って〜」
「俺もいく〜」
女に続くように、友人たちも階段を駆け降りてしまう。
僕「ち、ちょっと! ま、待ってよ!」
暗い階段に、僕の声だけが響いた。
僕も急いでみんなを追いかける。
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:32:14.38 ID:fJ2jl6pYO
僕「はあ、はあ……」
女「ふんだ、置いてっちゃうからね〜だ」
玄関に着いた彼女たちは、すでに靴をはきかえて外に出られる状態だった。
その姿を見るだけで、僕は焦った。
僕「ま、待ってよ。置いてっちゃ嫌だよ」
玄関と廊下の境界線が、とても遠くに感じる。
口では強がっていてもやはり恐怖心はある。
急いで靴をはこうと、走り出した。
その瞬間……。
「……なあ」
今まで静かだった大将が、僕の方を見つめて話しかけてきた。
「七不思議の事だけどさ、俺一度だけ体験をした事があるんだ」
いきなり……何を言い出すんだ。
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:38:57.92 ID:fJ2jl6pYO
女「え、体験したの?」
女は興奮した様子で話に食いついた。
大将は淡々とした様子で語り出した。
「うん。三年生になって……夏休みに入る前かな、雨が降った日があってさ」
「俺、宿題のプリントを学校に忘れちゃってさ。気付いたのが一度家に帰ってからだったんだ」
「ちょうど今くらいの時間かな。まだ夏だから暗くはなかったけど、それでも一人で学校を歩くのは不気味でさ」
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:47:27.29 ID:fJ2jl6pYO
女「ま、まさか教室に幽霊が出たとか?」
「……プリントを持って、学校から出たんだ。ここまでは何もなかったよ」
女「学校から出たって事は……もしかして金次郎さんが動いたりとか!?」
「違うよ。普通に玄関前の階段を降りて、校庭を歩いていたよ」
僕「……それから?」
「雨でグシャグシャの校庭を歩いていると……いきなり女の子の声がしたんだ」
女「声?」
『……こんにちは、今から帰るの?』
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:54:31.23 ID:fJ2jl6pYO
僕「女の子の……声?」
女「誰かに声をかけられたの?」
「うん。でも、周りを見渡しても誰もいないんだよ……広い校庭には俺だけ、他に誰もいない」
僕「だ、誰か玄関で話していたとかでしょ?」
「玄関からは離れた場所だよ、校庭の……どの辺かは忘れたけど、真ん中あたり」
女「それ……本当?」
「嘘じゃないよ。怖くて調べてはないけど……声は聞いたよ」
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 13:59:03.53 ID:fJ2jl6pYO
僕「そ、そうなんだ……」
その話を聞いて、僕はなんだか怖くなってしまった。
噂だけならともかく、実際にそんな体験をした人が周りにいるとなると……
「ん? どうした、怖いのか?」
僕「ち、ちょっとだけ……」
正直に僕は答えた。
足がプルプルと震えている。
「……っ、ぷ……」
僕「?」
「ふ、あはははっ、そんなに怖がるなよ! 嘘に決まってるだろ、こんな話!」
僕「な……」
さっきとは変わって、玄関中に響く声で笑い出した大将。
「あ、足なんか震わせちゃって、ふ、ふふふっ……」
これ以上ないくらいに、笑っている。
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:05:09.18 ID:fJ2jl6pYO
僕「ま、まあ嘘なら嘘でもいいんだけどさ……」
「……ところでさ、机に筆箱を置きっぱなしじゃないかい、僕くん」
僕「え?」
「ほら、お気に入りのあの青い筆箱だよ。みんなに自慢してただろう?」
カバンを漁ってみると、確かに筆箱だけが入っていなかった。
ゴタゴタの中でしまい忘れたのか。
僕(う、うう、あれが無いとなんか不安……)
僕「と、取ってくる!」
「あっそ。じゃあ俺たちは帰るから。一人で頑張れよ!」
僕「……え? 誰もついてきてくれないの?」
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:10:26.19 ID:fJ2jl6pYO
女「教室くらいすぐだよ〜。僕ちゃんなら一人で大丈夫だよね?」
僕「う……」
女にそう言われたら、カッコつけないわけにはいかない。
僕「じ、じゃあちょっと行ってくるよ……」
「おう。じゃあまた明日な〜」
僕「せ、せめてここで待っててよ!」
「え、僕くんだけ帰る方向違うじゃん。だからここでバイバイするんだよ」
僕「そ、そんな……」
チラッと女の方を見てみる。
女「……あ、もうアニメが始まっちゃう」
一人玄関を出ていく彼女。
女「じゃあ、バイバイ〜」
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:17:24.42 ID:fJ2jl6pYO
僕「うう……」
結局、僕は一人で廊下と階段を引き返し……二階の教室まで歩いていた。
廊下は更に暗くなり、もう一番奥の方は見えなくなっている。
僕「早く帰らないと……」
三年生の教室に入り、電気をつける。
真っ白い光が教室を照らす。
僕「ああ、あった」
机の上には青い筆箱。
僕はそれを取るとカバンにしまい、しっかりと閉じた。
僕「……もうこんな時間」
黒板の上に設置してある時計を見た後、僕は窓の方へ目を向けた。
30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:24:16.36 ID:fJ2jl6pYO
暗い空、そして……。
僕「あ、雨……」
いつの間にか降りだしていたのか、外では雨が力強く降っていた。
季節外れの夕立だろうか、すごい勢いで窓を叩いている雨水が印象的だ。
僕「……あ、女たちだ」
窓の向こう、教室から見える道では傘が四つ並んで歩いていた。
両脇に田んぼと畑が広がる、一本の道を早足で歩いていく。
僕(本当に、帰ってるや……)
僕も早く帰ろう。
そう思って教室の入り口に向かった瞬間……。
背中から、視線を感じた。
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:28:38.13 ID:fJ2jl6pYO
ビタッ、と。
入り口付近で固まってしまう。
明らかに、後ろに誰かがいる……ような気がした。
僕には霊感なんてないし、特別にオカルトが好きというわけではない。
それでも、背中から……教室の中か窓の向こう、ベランダから……視線を感じてしまった。
僕「……っ!」
僕は後ろを振り返らずに、一目散に教室から出ていった。
廊下を走り、階段を降りて……ようやく一階の玄関までたどり着いた。
32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:34:45.82 ID:fJ2jl6pYO
僕(怖くない、怖くない!)
置き傘を探しながら、僕は心の中で必死に叫んでいた。
……やっと傘を見つけ、学校を飛び出した時は正直ホッとした。
暗く、閉鎖的な空間よりはよっぽど居心地がいい。
僕(早く、帰ろう……)
玄関前の階段を降りて校庭へ。
急な雨で地面はグシャグシャ、ちょっと歩いただけですぐに靴下まで濡れてしまった。
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:39:43.11 ID:fJ2jl6pYO
僕「うへえ……嫌だ嫌だ」
僕「……まあ、帰ればコタツとストーブで暖まって、あ、お風呂もいいよなあ」
体は冷たいながらも、僕は帰った時の事を想像して内心はウキウキしながら歩いていた。
雨はそんなに嫌いじゃない。
何より、寒い体を暖めてノンビリする……僕はそれが好きだった。
僕「今日の夕ご飯はなにかな〜」
そんな……ゆっくりとした気持ちで校庭を歩いていた。
彼女の声が聞こえてくるまでは。
『……わ』
僕「……え?」
聞こえた何かに、耳を傾けてみる。
『……』
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:43:47.36 ID:fJ2jl6pYO
なんだ、気のせいか……。
辺りを見回しても誰もいない。
もう一歩を踏み出そうとした瞬間……。
『……こんにちは、今から帰るの?』
僕「!」
今度ははっきりと聞こえた。
か細く、弱々しい声だけれども……雨音にかき消される事なく、はっきりと僕の耳に届いた。
『……ねえ、今から帰るの? 少し私とお話しない?』
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:48:31.84 ID:fJ2jl6pYO
お話……?
僕(ま、待ってよ、足がすくんで……喉も)
『ふふっ、そんなに怖がらなくていいのに。私、何も悪い事しないよ』
僕「あ、あ……」
ダメだ、校庭の真ん中で僕は立ち尽くしてしまった。
足が氷のように動かない。
靴下が水浸しでも、もう関係ない。
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:53:19.75 ID:fJ2jl6pYO
『そんなに……怖がらないでよ……ただ、お話したい……』
『それだけ、なのに』
僕「……?」
よく声を聞いてみると、確かに不思議な感じがした。
姿は見えないけれど、ただそれだけ。
『ねえ、お願いだから』
その声からは、純粋に僕と話したい……そんな印象しか受けなかった。
僕「き、君はだ、だれ?」
震えながらも精一杯に声を絞り出した。
ちゃんと聞こえてくれただろうか?
『! 私、私はね……!』
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 14:59:31.46 ID:fJ2jl6pYO
『私は……ただお話したいだけだよ』
興奮から一呼吸置いた後、落ち着いた返事がきた。
僕「え、えっと……怖くないよね?」
僕はまだ、落ち着けていないようだった。
『怖くないよ。ちょっと声かけたら、みんな逃げちゃうんだもん……もう、寂しいよ……』
僕「み、みんなって?」
『この学校の人。私がお話しても、誰も答えてくれなかったから……』
僕「は、話がわからないんだけど」
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:04:01.97 ID:fJ2jl6pYO
『ねえ、私と一緒にお話してくれる?』
どこからともなく声がしている。
悪意はなくても、気持ちのいい事ではない。
僕は思いきって提案をしてみた。
僕「……す、姿を見せてくれればいいよ」
『姿も何も、私はずっとここにいるよ』
僕「え? どこに?」
辺りを探しても、ただ校庭に雨が降っているだけ。
女の子の姿は見当たらない。
『もう、違うよ。そんな周りじゃなくて……教室のベランダ』
僕「ベランダ……?」
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:08:19.52 ID:fJ2jl6pYO
『うん、電気つけっぱなしの三年生の教室だよ』
僕「あ……」
どうやら学校から出る事に夢中で、教室の電気を消し忘れてしまったらしい。
二階では一つだけ、電気のついた三年生の教室が目立っている。
そのベランダを見てみると……。
僕「……いないよ」
『……』
僕「そんな嘘はいいからさ、早く姿を見せてよ」
話せる分だけ、僕も少し強気になっていた。
『う、嘘じゃないよ……私、ずっとずっとここにいたんだもん……』
女の子の声が、少し泣き出しそうになっていた。
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:14:34.72 ID:fJ2jl6pYO
僕「で、でも実際姿見えないよ? なにか証拠でもないと信じられな……」
『さっき、帰る前に女ちゃんに呼び止められて学校探検してた』
僕「な、なんでそれを知って……」
『ずっといるんだから、わかるよ。君の名前も、今日の給食のメニューも』
僕「で、でもそれだけなら……」
『……青い筆箱、机に忘れてた』
僕「!」
『窓から外見て、帰る友達見ていた』
僕「そ、それはさっきの」
『ずっと見てたもん、私にはわかるんだもん』
『ここに……ずっといるんだもん』
ヤバい、さらに泣き出しそうなくらい弱い声になっている。
42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:20:22.64 ID:fJ2jl6pYO
僕「姿を現す事はできないの?」
『知らない、そんなの。私はここにいるんだもん』
僕「うう〜ん……」
こっちからすると、姿が見えないのは不安で仕方がない。
『お話……』
いくら声が聞こえるから……って?
声が聞こえる?
僕「あ、あのさ」
『ん〜』
僕「君は、今どこにいるの?」
『ベランダだよ〜……三年生の教室の』
僕「じゃあ……どうして君の声が僕に聞こえるの?」
『え?』
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:26:08.49 ID:fJ2jl6pYO
僕「だって僕、校庭の真ん中……ううん、校舎から見れば奥の方にいるんだよ?」
『うん、見えてるよ〜』
僕「普通はこんな声なんて聞こえないよ、雨だって降っているのに」
『……でも、声が届いた人はみんなその辺にいたもん。話したいな〜って声かけたら聞こえたんだもん』
僕「この辺に?」
周りを見てみるけれども……この辺りには遊具なんて何もない。
ただ景色が開けている、普通の校庭の一部でしかない。
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:33:16.25 ID:fJ2jl6pYO
僕「……」
雨は相変わらず、強く降っている。
校庭の土を叩いては、いくつもの水溜まりを作って……。
僕(あ、水溜まりが光ってる)
目の前の先……数歩分くらいの距離にある水溜まりが、なぜか白い光を放っていた。
しかし、それは何も不思議な光ではなかった。
僕(……ああ、教室の電気か)
水溜まりの中に、僕が消し忘れた教室の光が反射している。
僕は、その水溜まりをボーッと見つめていた。
45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:38:08.99 ID:fJ2jl6pYO
『……』
僕(……あ)
白い光のある場所には、当然教室とベランダが映っている。
僕(だって、あれ?)
顔を上げて、実際の教室の方を見てみる。
僕(……いない)
再び、水溜まりの光に目をやると……白い光が素直に僕の目に入ってこない。
どうしても、光の前に一つだけ影が入ってしまっている。
それは、小さな女の子の影のように見えた。
彼女は、ベランダの手すりに頬っぺたをくっつけ突っ伏していた。
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:45:18.36 ID:fJ2jl6pYO
僕「ねえ、今手すりにくっついてる?」
『え? う、うん。一応』
言葉と一緒に、水溜まりの中の影が顔を起こしたように見えた。
僕は少し興奮しながら、また彼女に話しかけた。
僕「あ、今体まっすぐにしたでしょ?」
『……見えるの?』
僕「見えるよ、教室のベランダにいる。真っ白いワンピース着てて……」
雨はもうそんなに強く降っていない。
水面に反射したベランダ……水溜まりの中に、僕は彼女を見つける事が出来た。
僕が本当の不思議に出会った瞬間だった。
49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:52:40.92 ID:fJ2jl6pYO
パッ。
僕「あ……」
僕が彼女を見つけた瞬間、教室の電気が消されてしまった。
『先生来て、消されちゃったよ』
僕「そっか、まあ当たり前かな」
『もう私見えない?』
僕「……いや、見えるよ」
光がなくなっても、水溜まりの中に彼女はいた。
僕「まだ一階職員室の明かりがついているから、余裕だよ」
『ふふっ、よかった』
笑う彼女の声を聞いて、なんだか僕まで嬉しくなってしまった。
50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:53:17.62 ID:wDPipLSS0
このスレだけは保守するぜ
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 15:57:28.61 ID:fJ2jl6pYO
光が無くても、ベランダにいる彼女はよく見えた。
僕(水溜まりがこんなに映像を反射するものだとは思わなかったな……)
『えへへっ、なんとなくわかったよ』
僕「ん? 何?」
『その水溜まり……私が映ってる距離と僕ちゃんがいる距離は近いでしょ?』
いつの間にか、名前で呼ばれてしまっている。
『だから、お話できるんだよ。私って天才〜』
僕「……ぷ、ふふっ」
『な、なによ。何かおかしい事言った〜?』
僕「い、いや、ずいぶんお茶目な性格なんだな〜って、くくっ」
53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:03:40.64 ID:fJ2jl6pYO
僕「さっき話しかけられた時は怖かったけど……」
『悪いことなんてしないって言ってるのに……』
僕「姿が見えなかったからね。今はちゃんと……あ、今髪の毛いじったでしょ」
『っ! べ、別に女の子だからいいんだもん! 悪い!?』
僕「わ、悪いなんて言ってないよ。ちゃんと見えてるんだからさ……ほら、お話しようよ」
『……』
僕「あれ、ダメ?」
『……もう、お家帰る時間でしょ』
彼女がそう言うと.学校のチャイムが校庭に鳴り響いた。
僕「こんな時間にチャイムが鳴るんだ」
『これが最後のチャイムだよ。冬はみんな早く帰っちゃうから……』
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:08:29.46 ID:fJ2jl6pYO
空もすっかり暗くなっている。
職員室の明かりだけが、弱々しく学校に一つだけ灯っている。
僕「僕もそろそろ帰らないと」
『うん……今日はありがとう』
僕「また会えるよね?」
『私はずっとここにいるよ。授業中も、給食の時間も、放課後も……』
僕「あ、そっか、じゃあいつでも会えるんだね」
僕は少しだけ嬉し楽しい気分になった。
55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:12:08.82 ID:fJ2jl6pYO
『……どうだろうね』
僕「?」
彼女の声は、どこか沈んでいるように思えた。
僕「あ、あのさ……」
僕が話しかけた瞬間、職員室の明かりが消えた。
僕「あ……」
『また今度会えたらいいね、バイバイ僕ちゃん』
僕「ねえ……ねえ」
『……』
水溜まりに言葉を投げ掛けても、もう返事は来なかった。
光が全くない状態では、水溜まりの中を見る事もできない。
僕「……またね」
56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:19:26.76 ID:fJ2jl6pYO
真っ黒い地面にお別れの挨拶をして、僕は学校を後にした。
僕(……)
放課後に学校を探検した事。
噂の女の子に会って、会話をした事。
そして彼女の姿を見つけてしまった事。
僕(明日もまた会えるよね……ずっとあの場所にいるんだから)
しばらく歩き、遠くの道から僕はベランダを見つめた。
彼女がいる場所に向かって、大きく手を振った。
『うん。また……ね』
ベランダでは、少女が小さく手を振っている。
僕は背中に何も感じないまま、家までの道を走っていった。
58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:33:12.02 ID:fJ2jl6pYO
翌日の放課後。
僕「ねえ女ちゃん」
女「ん、どうしたの〜?」
僕「今日は七不思議の調査しないの?」
女「……あんまり新しい噂がなくてさ〜。体育館だって授業の時調べたけど、別に何もなかったし」
僕「へへっ、じゃあ僕が一つ教えてあげるよ」
女「え?」
僕「一つ、不思議が見える場所を知ってるんだ!」
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:33:24.18 ID:wDPipLSS0
なんかなける。てかこれ続く?結構楽しみなんだか
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:38:27.20 ID:fJ2jl6pYO
女「……ここ?」
僕は彼女を、昨日の水溜まりがあった辺りまで連れてきていた。
今朝は晴天だったせいか、水溜まりは無く地面が少し湿っている……くらいの印象だ。
女「……本当に、ここでその子と話せるの?」
僕「うん。昨日話したもの」
女「で、肝心のその子はどこにいるの?」
僕「ん……えっと」
僕は水溜まりのあった場所を指差した。
僕「昨日はここにいたよ」
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:43:27.74 ID:y3ZdiGQZ0
つかまえての人か
今回も楽しみにしてる
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:43:51.07 ID:fJ2jl6pYO
女「ここにいたって……地面から出てきたの?」
僕「違うよ、水溜まりの中にいるの。本当は三年生のベランダにいるんだけど……」
女「えっ、私たちの教室の所?」
彼女は、二階のベランダをパッと見つめた。
僕もその動きに釣られて同じ場所を見た。
でも、そこは昨日と同じで何も見えなかった。
女「……いないじゃん」
僕「だから、昨日は水溜まりの中で……あれ?」
一晩あけて頭の整理が出来ていないのか……うまく、説明が出来ない。
僕(他の人にわかるように説明するのって、難しい……)
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:48:06.73 ID:fJ2jl6pYO
僕「あ、そ、そうだ」
思い出したように、僕は水溜まりのあった場所に話しかけてみた。
僕「ね、ねえ。来たよ、こんにちは」
……。
昨日聞こえた声は返ってこない。
僕「あ、あれ?」
女「もう、協力してくれるのは嬉しいけどさ。あんまり変な噂は流しちゃダメだよ〜」
あはは〜と、彼女は軽く笑っている。
僕「べ、別にそういうつもりじゃないよ」
しかし、声が聞こえない以上はただのイタズラになってしまう。
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 16:57:24.60 ID:fJ2jl6pYO
女「ふふっ、優しいね僕ちゃんは。そんなに気にしないでいいのに」
僕「でも……」
本当に彼女はいるんだ。
女「大丈夫だよ、不思議が見つからなくても新聞は作れるんだからさ」
僕「……」
結局、その後も声をかけてみたけれど反応はなかった。
あの女の子は、ずっと同じ場所にいると言ったのに。
たまたま、あの場所から離れていたんだろうか。
それとも今日は話したくない気分だったのだろうか。
僕たちが帰路についたのは、ちょうど夕空に一番星が光った頃の時間だった。
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 18:25:36.88 ID:xJMl0LRD0
ほ
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 18:57:11.78 ID:q798NYZ90
>>1をまっていた!
これでクリスマスもかつる!
72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:36:25.54 ID:LF+obaG10
ええいまだか
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:38:07.57 ID:fJ2jl6pYO
僕「ね、ねえどこいくの?」
女「いいからついてきて〜」
学校を後にした僕たちは、もう夜になりそうな帰り道を歩いていた。
僕が、付き合わせたお詫びに近くの駄菓子屋で何か奢るよ、と言ったら……。
女「……あ、それだったらついてきてよ」
僕(言われるままについてきたけれども)
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:43:27.24 ID:fJ2jl6pYO
僕はいつもと違う道を通って、家に向かって歩いている。
狭い路地や、竹林に囲まれた敷地の横を抜けて……彼女の後ろにくっついていた。
僕(方角は合ってるけど、ちょっと回り道だよ……)
女「あ、ほらついたよ、ここ」
狭い道を抜けると、車が走る大通りに出た。
僕「ここって、コンビニ?」
女「そうだよ。私、ここで食べたい物があるんだ」
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:44:02.10 ID:+3Xj03jd0
ん
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:49:03.49 ID:fJ2jl6pYO
お店に入ると……真っ白な電気とヒーターの匂いが僕たちを包んだ。
僕「あったかい」
女「あ、僕ちゃんお金いくら持ってる?」
僕「んと、50円」
もともとは駄菓子屋で使う予定だったお金だ、コンビニで買い物をするには少し頼りない。
女「ふふっ、よかったちょうど、それくらいで」
彼女的には都合がいいらしい。
女「すいません、肉まん一つ下さい〜」
レジの前で、彼女は中華まんの入っているケースを指差して言った。
僕「……食べたいのって肉まんだったんだ」
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:54:50.21 ID:fJ2jl6pYO
お金を半分づつ払った僕たちは、コンビニの外でさっき買った肉まんを分けあった。
女「はい、半分あげる」
僕「あ、ありがとう……」
美味しそうな湯気が出ている。
冷めないうちに口に運んでしまおうと、僕は肉まんにかぶり付いた。
僕「ぱく……美味し」
女「ふふっ、温かくて美味しいね〜」
僕「これが食べたい物?」
女「そうだよ、冬はこういう食べ物の方が幸せになれる気がする」
二口、三口で半分の肉まんはどんどん小さくなっていく。
温かいけれど、男の子の僕には少し足りない量だった。
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 19:58:41.13 ID:fJ2jl6pYO
女「ごちそうさま」
僕「……ごちそうさま」
ゴミを捨てて、僕と彼女は向き合う形になった。
そろそろお別れの時間だ。
僕「肉まん、ありがとうね」
なぜかお礼を言ってしまう。
女「うん、美味しかったよ!」
お腹がふくれたせいか、彼女は元気に返事をした。
僕は、少しだけ水溜まりの中の少女の事を考えた。
僕(あの子も温かい物は好きなのかな……)
次にあったら聞いてみよう。
女「じゃあ、またね」
僕「うん、バイバイ」
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/23(木) 20:04:34.83 ID:fJ2jl6pYO
『えっ、好きな食べ物?』
次に彼女に会えたのは、12月に入ってすぐの辺りだった。
校庭を歩いていると、久しぶりな声が聞こえてきて……。
この日も雨が降っていた。
水溜まりの中には、変わらない様子の彼女が見えた。
僕「うん、何が好きかなって思って」
『……あんまり覚えてないや。最近ご飯だって食べないし』
僕「そう、なんだ」
『うん……』
帰りのコンビニ思い付いた、この話題はあまり良くなかったらしい。
水の中の彼女が、ちょっとふて腐れた様子で手すりにもたれ掛かっている。
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