メリー「わたし、メリーさんなの?」 【後篇】
メリー「わたし、メリーさんなの?」 【後篇】
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:32:04.07 ID:Ig2wW4WoO
メリー「あのね、聞いて聞いて!」
男「仕事帰り=疲れた=……後はわかるな?」
メリー「わたし、しばらくこの家に住んでいてもいいって!」
男「よかったねーぼくつかれてるんだーおやすみー」
メリー「ち、ちょっと待ってよ」
男「いいだろう待ってやる。ただし、あと三秒以内に用件を言わなかったら切る」
メリー「えっ、短……あなたはっ……こっちに、来ないの?」
男「行ってどうするんだよ」
メリー「……わたし、あなたに会いたいわ」
男「珍しく素直な君を見た。実を言うとここの処、ちょっとしたごたごたがあってな、」
メリー「イヤ。会いたいの」
男「では人の話を聞かない子は放っといて、寝るとしよう。じゃ」
ぶつっ
メリー「……」
メリー「……ごたごた?」
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:33:20.75 ID:f2EmZYDH0
ついに児ポ法で捕まったのか
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:37:11.62 ID:Ig2wW4WoO
メリー「あ、繋がった?」
男「ただいま留守にしております。探さないでください」
メリー「留守かー。て、なんでやねん!」
男「……もう一回」
メリー「な、なんでやねん」
男「この現象はたまにある。聴き慣れている声だが、いつもと違う口調で喋られると胸が熱くなる感じ。しかも君の場合はロリ声だから尚更だ」
メリー「……また変なこと言って、わたしがしようとする話を封じ込めるつもりね」
男「バレたか」
メリー「もうわかってると思うけど、わたし、普通の女の子よ、きっと」
男「メリーさんごっこ卒業の時期ですか」
メリー「ううん、わたしは紛れもなくメリーさんなのよ、それだけは覚えているもの」
男「意味がわからん。君、会話を破綻させようとしてないかね」
メリー「……わたしだってわからないわ。気が付いたら親がいなくて、お金だけがあって、あなたの電話番号が脳に浮かんで、それから……わたしの名前はメr」
男「すまん、改行規制に引っかかるからトイレってことにして、保留にしよう」
ピー
60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:32:04.07 ID:Ig2wW4WoO
メリー「あのね、聞いて聞いて!」
男「仕事帰り=疲れた=……後はわかるな?」
メリー「わたし、しばらくこの家に住んでいてもいいって!」
男「よかったねーぼくつかれてるんだーおやすみー」
メリー「ち、ちょっと待ってよ」
男「いいだろう待ってやる。ただし、あと三秒以内に用件を言わなかったら切る」
メリー「えっ、短……あなたはっ……こっちに、来ないの?」
男「行ってどうするんだよ」
メリー「……わたし、あなたに会いたいわ」
男「珍しく素直な君を見た。実を言うとここの処、ちょっとしたごたごたがあってな、」
メリー「イヤ。会いたいの」
男「では人の話を聞かない子は放っといて、寝るとしよう。じゃ」
ぶつっ
メリー「……」
メリー「……ごたごた?」
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:33:20.75 ID:f2EmZYDH0
ついに児ポ法で捕まったのか
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:37:11.62 ID:Ig2wW4WoO
メリー「あ、繋がった?」
男「ただいま留守にしております。探さないでください」
メリー「留守かー。て、なんでやねん!」
男「……もう一回」
メリー「な、なんでやねん」
男「この現象はたまにある。聴き慣れている声だが、いつもと違う口調で喋られると胸が熱くなる感じ。しかも君の場合はロリ声だから尚更だ」
メリー「……また変なこと言って、わたしがしようとする話を封じ込めるつもりね」
男「バレたか」
メリー「もうわかってると思うけど、わたし、普通の女の子よ、きっと」
男「メリーさんごっこ卒業の時期ですか」
メリー「ううん、わたしは紛れもなくメリーさんなのよ、それだけは覚えているもの」
男「意味がわからん。君、会話を破綻させようとしてないかね」
メリー「……わたしだってわからないわ。気が付いたら親がいなくて、お金だけがあって、あなたの電話番号が脳に浮かんで、それから……わたしの名前はメr」
男「すまん、改行規制に引っかかるからトイレってことにして、保留にしよう」
ピー
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:43:18.75 ID:Ig2wW4WoO
男「はいはい保留解除っと。で、なんだっけ?」
メリー「……ほんと、ムードを感じ取れない人ね」
男「恐れ入る」
メリー「……先に言っておくわ、ごめんなさい」
男「ん」
メリー「わたしって、何回か、あなたが何をしていたか当ててみせた時があったじゃない」
男「僕が仕事から帰ってきた時とか、家に篭もってる時とか」
メリー「そう。あれ、全部嘘なの。本当は勘で言ってたの」
男「知ってるよん」
メリー「……へっ?し、知ってる?」
男「君のことだから、嘘でもメリーさんらしくしておきたかったとか、そんな理由で見栄を張ってたんだろう」
メリー「う……」
男「最初は驚いた。しかし期待を裏切って悪いが、だいたい僕は君があのメリーさんだなんて、初めから信じてなかったぞ」
メリー「……」
男「おっと、改行規制が。まあいいか、保留にしなくても。このまま話を続けようか」
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:48:17.81 ID:Ig2wW4WoO
メリー「だからわたしは、本当のメリーさんみたく怪奇現象を起こせるわけでもないし、あなたを恨む理由もない」
男「ならば、どうして僕の電話番号を知っているのか、どうして君は『メリーさん』なのか。もう一度そこから考えてみようず」
メリー「……わからないわ、記憶が無いもの」
男「厄介だな、記憶喪失。というか君から聞いた限りの情報じゃ曖昧すぎる。どこからどこまでの記憶が吹っ飛んだのか、それを知りたいんだが」
メリー「ねえ、そんなことはもう、どうだっていいの。わたしが普通の女の子だってこと、これだけでもあなたにわかってもらえれば、それでいいの」
男「おーい、真面目に考えてやってる僕をさて置いて、記憶を無くした本人が思考放棄ですか」
メリー「……記憶を取り戻して、わたしにどうしろって言うの?親がいなくて、帰れる所もないわたしに……」
男「辛いだろうが、君にとって思い出すべき大事な記憶もあると思うぞ」
メリー「そんなものいらない!だからっ、あなたに会いたいの!」
男「……」
メリー「いつの間にか独りぼっちで、悲しくて怖くて寂しくて。あなたに会いたくて、甘えたくて、ずうっと我慢してたんだから!」
男「……なあ、後ろの方でお袋が何か言ってるだろ。君のことを気にかけて──」
メリー「なって……なってよ、わたしのお父さんになってよ!」
ぶつっ
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:52:31.48 ID:dXGFQNHM0
猛烈にしえん
すげー面白い
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:53:22.27 ID:Ig2wW4WoO
彼女のとんでもない爆弾発言に驚き、ついつい電話を切ってしまった。
でもまあ、少しでも彼女の思いを理解できたからよしとする。あれが、彼女のありったけの素直な気持ちなんだろう。
兄でも彼氏でも旦那でもなく、お父さんになってと彼女は言った。
それも先の発言によると、僕に会いたいとか──それらの本音を吐き出すことを、ずっと我慢していたらしい。
…………待てよ。
なぜ『お父さん』なんだ?
今、彼女の側には僕のお袋がいる。包容力のある『お母さん』じゃダメなのか?
…………。
もしも、彼女が父子家庭だったとしたら……。
…………。
…………。
……知り合いに一人、子供と二人で暮らしている人がいた。
僕の勤務先の同僚で、僕より年上の、とても穏やかな人だ。
だけど、その人は、
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:58:15.40 ID:Ig2wW4WoO
男「あ、お袋さん、今日も麗しい美声ですね。はいはい普通のお世辞だから気持ち悪いとか言わない。あのとんちき娘に替わってくれないか?」
メリー「……もしもし」
男「よ。こっちから掛けてみた、仮にも実家だしな」
メリー「今、あなたとは話したくないわ」
男「いや、昨日はすまなかったけど、そう言うなよ。声を交わすだけじゃないか」
メリー「……用件は何?」
男「たまには僕の方から話を振ってやる。おとなしく聞いていたまえ」
メリー「聞いてるだけでいいの?」
男「……相槌くらいは必要だよな、うん」
メリー「はあ……わかった。早く話して」
男「まず、僕には仕事の同僚、っつか友達がいるんだ。奥さんとは離れた、子持ちのな」
メリー「つまり、その人は離婚済みなの?」
男「そんなストレートに言うな。でも、離婚した理由が見つからないほど温厚で優しい人なんだよ。浮気もしなさそうな、誰かの為にがんばれるタイプの人間で」
メリー「いい人なのね。それで?」
男「最近、自殺したみたいなんだ、その人」
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:03:18.89 ID:Ig2wW4WoO
メリー「じ……さつ?」
男「ああ。外の、滅多に人が通らない場所で。実際に遺体が見つかったのは、そうだな、僕が『ごたごた』があったって言った日だな」
メリー「……」
男「それも自殺してから数日経ってるって。道理で勤務先に顔出さなかったわけだよなぁ」
メリー「な、なんて言えばいいか、わかんないけど……あの……」
男「励ましはいらん、案外元気だから。ただ遺体が見つかる前に、その人の家を訪問したり、電話したり、何日も繰り返したわけだが」
メリー「……うん」
男「一度も応答が無かった。……この時点で、おかしいと思わないか?」
メリー「え?」
男「子供がどこにもいないみたいなんだ。通ってた学校にも来ていない、父と一緒に遺体が発見された訳でもない」
メリー「……ねえ、その話、なんか怖くて聞きたくないわ、いつ終わるの……?」
男「すまん。とにかく一言で言えば、子供が行方不明という話」
メリー「本当にそれだけ?あなたは……大丈夫なの?」
男「大丈夫だって。それより、心配するなら今の話の子供だ。明日か明後日には僕の、その、死んだ友達の家を強行して入って、捜索するっていうから、もしかしたら……」
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:08:16.20 ID:Ig2wW4WoO
男「で、唐突だが君に質問ターイム」
メリー「……急に何よ」
男「君に母親はいたのか?」
メリー「いると思うわ、『思う』だけ。……何度も言うけど、記憶を失ってるの、わたし」
男「君の家にはアルバムとか、思い出が残されている物が一つも無いということだな?」
メリー「……知らない。探してないもの」
男「なら、父親は?」
メリー「もう、やめて。詮索しないで」
男「友達すら覚えてないわけは無いよな?」
メリー「……やめてってば」
男「なあ、メリー。明日にでも会おうか、僕と」
メリー「……」
男「そんで君の家に案内してもらって、思い出を一緒に探してやる。それでいいんじゃないか?」
メリー「やだ、やだっ!やめてよ、そんなものいらない……いらないんだから!」
──僕はこの子の正体を、つい最近知ってしまった。しかしそれとは別に、この子自体を知ったのは、今から何年前のことだろうか──。
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:09:33.32 ID:NW4GStWcO
これはくっついてほしい
父と娘の関係じゃつまらん
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:11:45.72 ID:Q9T0lbrD0
なんかちょっと怖い
72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:13:17.21 ID:Ig2wW4WoO
同僚「──ありがとう、わざわざ娘の誕生日に来てくれて」
男「僕で良ければ、な。大したプレゼントは持ってこれなかったけども」
同僚「娘を祝ってくれるだけでもありがたいことさ」
男「……お邪魔します。ん?」
「…………」
男「はじめまして、しがない仕事人の男と言うものです。お父さんから聞いてない?」
ふるふる
男「え、聞いてないって。そうしたら僕は君にとっちゃただの恐いおじさんじゃないか」
同僚「こら、この前話しただろう。おまえを祝ってくれる人が来るって」
「…………」
ふるふる
男「聞いた覚えはないらしいですよ、『お父さん』」
同僚「……はは、こいつは照れ屋でね。こういう時に困るんだ」
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:18:05.94 ID:Ig2wW4WoO
同僚「包丁包丁、っと」
男「手伝おうか」
同僚「三等分にするだけだが……」
男「いや、上手く切れるかなって」
同僚「馬鹿にするんじゃない。こんなくたびれた手でも、毎日娘に飯を作ってきてやったんだ、これくらいは出来る」
男「さすがお父さん」
じー
男「……そうだな、当事者の君を祝うつもりで来たんだ。先にプレゼントを渡しておこうか」
「…………」
男「これ、開けてごらん」
「……?」
男「爆弾じゃないから安心していいよ」
「……あ……」
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:23:09.89 ID:Ig2wW4WoO
男「オルゴールっていうんだ。使い方はわかる……かな?」
「…………」
男「ここのネジを巻くと」
〜〜〜
「……この曲」
男「わかる?」
「うん、好きな曲」
男「へえ、よかった。プレゼントして正解だったよ」
〜〜〜
「名前が好きなの」
男「名前?」
「曲の名前。可愛いから」
男「じゃあひつじが好きなんだ」
「ううん、違う」
男「違う?ああわかった。今日は君に可愛い名前を付けて、こう呼ぼう──」
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:28:05.33 ID:Ig2wW4WoO
男「……メリーさん」
メリー「……もう切るわ」
男「好きな曲を教えてくれないか?」
メリー「は……?別に、無いけど」
男「当ててみせようか」
メリー「無いって言っ」
男「メリーさんのひつじ」
メリー「て……」
男「君の家にそのオルゴールがあるだろう」
メリー「…………どうして?」
男「僕が君にあげたから」
メリー「……ちょっと待ってて」
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:33:10.88 ID:Ig2wW4WoO
メリー「ね、この音、聞こえる?」
〜〜〜
男「ああ、これだよ、メリーさんのひつじの……オルゴール」
メリー「記憶の端っこで、これは大事なものだってことだけ覚えてたから、家を出る際に持ってったの」
男「……自身を必死に『メリーさん』だと自称していた理由はそれか。とんだメリーさん違いだな」
メリー「……あなただったのね、これ、くれたの」
男「思い出したか?」
メリー「……ううん、何も」
男「……そうか」
メリー「わたしとあなたは知り合いだった。それを証明出来ただけでもいいじゃない、あとは何もいらないわ」
男「……なあ、その言葉の意味はわかってるよな?」
メリー「え?」
男「君は僕を知らなくても、僕は君を知ってしまったことになる」
メリー「……」
男「僕は君に、君のほぼ全てを教えなくちゃいけないんだ」
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:38:06.77 ID:Ig2wW4WoO
男「聞きたくないよな」
メリー「……」
男「だけど聞かせなくちゃいけない。一つの繋がりを証明してしまった以上、もっと他の繋がりを証明させる必要がある」
メリー「……」
男「……さっき話した同僚の子供、それは……」
言ってもいいのか?
言わないと先に進まないんだ、だけど。
まだこんな幼い子供に言う必要があるのか……?
男「…………」
メリー「……明日、会えばいいじゃない。ここで待ってるから」
男「あ……ああ」
メリー「そして、会って、言って」
そこで電話は切れた。
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:43:08.15 ID:Ig2wW4WoO
ぴん ぽーん
男「お袋さーん、僕ですよ、僕ー」
男「おいおい、ここまで来たのに入れないとか……」
がらっ
男「……お?」
男「おはよう、メリーさん」
メリー「……」
容姿は変わっているが、辿々しくてあどけないその様は何年か前に会った同僚の娘と同じで、目の前の少女は確かにあの娘のままだった。
男「一応、君は記憶を失っている様だから、はじめましてとも言っておく」
メリー「……わたしが」
男「ん」
メリー「わたしが想像していたほど、格好良くない」
男「イメージを崩してしまってどうも悪うございましたよ」
メリー「でも温かくなるわ、あなたを見てると」
男「……玄関だから、日照りのせいで熱く感じるんだよ。そろそろ中に入れてくれ」
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:48:08.23 ID:Ig2wW4WoO
男「お袋、勝手にクーラー付けさせてもらうよ。え、扇風機がある?」
メリー「知らないの?クーラーの風ばかり浴びてると暑さに対する免疫が薄れていくのよ」
男「なんというか、会ってみて改めて感じるよ。君はませた子だな、って」
メリー「……うるさいわね」
男「はは」
メリー「……」
僕は何をしにここへ来たんだ。この子の顔を拝むため?いいや、それだけじゃないだろう。
僕は……。
男「決めた」
メリー「……?」
男「君を遊園地に連れて行こう」
メリー「え、な」
男「お袋、この子と遊園地に行ってくる。車のキー貸してくれ」
メリー「ちょっ、待っ」
男「そんなに遅くならないから心配しなくていい。んじゃ行ってくる」
82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:56:25.91 ID:NeN9AQpoO
なんか初恋の時の胸のトキメキを思い出すわー
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:03:16.76 ID:Ig2wW4WoO
ブロロロロ
男「君はすぐに酔うタイプ?」
メリー「別に」
男「そうか。じゃあ飛ばして行こうかね」
メリー「ねえ、話って」
男「音楽でもかけるか。えーっと、井上陽水、天童よしみ……なんだこりゃ、最近のはないのかよ」
メリー「……」
男「お袋は僕より昔を生きた人だからなー。よしメリー、君の十八番を歌うんだ」
メリー「急に何よ」
男「君にメリーさんのひつじを歌ってもらおうと思う」
メリー「イヤに決まってるでしょ!その井上なんとかって人の歌でいいじゃない」
男「でもな、これ子供向けじゃない……」
メリー「どうでもいいから付けなさいよ……ああもう、わたしがやるわ。ここ押せばいいの?」
男「そこ、だけど……まあいいか」
「──夏が過ぎ かぜあざみ──」
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:05:04.00 ID:Kp12SNW/0
少年時代・・・
89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:08:12.00 ID:b9P/18XU0
秋が近いのかねー
90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:11:03.37 ID:Ig2wW4WoO
「────私の心は 夏模様」
メリー「……」
男「いや、僕はこの歌好きだけどな、君にとっては面白くも何ともないだろう」
メリー「……わたしは、きっとこんな風にはなれないわ」
男「こんな風?」
メリー「『あの頃は良かった』って言えるような今の、少女でいられる時代を、もう生きられないもの」
メリー「季節の流れも感じられずに、しんでいくもの……」
男「……」
メリー「見本となる親の背中を見ないで成長する子供なんていないわ。……わたしは大人になれないのよ、もう」
男「……だから今日、君を遊園地に連れていくんだ。思い出を作りに」
メリー「形だけの同情なんていらない……あなたはお父さんになれないじゃない」
男「本当の親じゃなくても、君を立派な大人にしてやれるだけの技量はあると自負してるよ、僕は」
メリー「……」
……頼まれたからな──。
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:16:12.21 ID:Ig2wW4WoO
男「──どうした、最近元気がないな」
同僚「ああ、男か……」
男「仕事も手付かずみたいじゃないか、何か悩みでもあるのか?」
同僚「俺、思うんだ。別れた妻は、今頃どこかの見知らぬ誰かに『あの人は馬鹿だった』って言い続けてるんじゃないかって」
男「そんなことは、」
同僚「そうなんだよ、男手一つで一人の娘を養えるわけがなかったんだよな……」
男「養えてるじゃないか、今充分に」
同僚「……借金を抱えて生きてるんだ、充分な訳がない」
男「な……借金?どうして、もっと早くに」
同僚「言ったところでどうしようもないさ。……男、俺のお願いを聞いてくれないか」
男「……ああ、金なら貸してやる。いくら──」
同僚「俺に何かあったら娘を頼む」
95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:21:05.98 ID:Ig2wW4WoO
男「着いた着いた。いやしかし暑いな、人だらけじゃないか」
メリー「本当に入るの?」
男「ああ。こういうところは苦手か?」
メリー「……ちょっとだけ」
男「じゃあ、ほら」
メリー「なに、その手」
男「繋げば少しは落ち着くんじゃないか?」
メリー「べっ、別に……」
男「そうか、嫌なのか。なら仕方ないな」
ぎゅっ
メリー「……これでいいんでしょ、これで」
男「んー?なんか手汗が凄いな、君」
ばっ
メリー「こ……っのバカ!最低!もう帰る!」
男「おい待てって、僕達の番来ちゃったよ。あ、すみません、大人と子供一人ずつでお願いします」
97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:26:17.51 ID:Ig2wW4WoO
男「さーて、どこのアトラクションに行こうか、メリーさん」
メリー「……適当に行けばいいじゃない」
男「まださっきのことを根に持ってるのか?ちゃんと謝っただろう」
メリー「そうじゃない!……こういうのは男性がリードするものでしょ、ふつう」
男「この場合は残念ながら男性女性の問題じゃないな。大人は子供の意思を優先する、それだけだ」
メリー「っ……何よ、勝手に連れてきたくせに」
男「へーえ、ほーお、君はそういうことを言うのか。ならばこっちにも考えがある」
ぎゅっ
メリー「痛っ。き、急に引っ張らないでよ」
男「じゃあこうした方が良かったか?」
メリー「……!?」
ぐい
メリー「やっ……お、降ろしてよ!ちょっと、やだ……」
男「軽い軽い。これでだいぶ楽になったな」
メリー「もぉやぁ……恥ずかしい」
98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:31:04.50 ID:Ig2wW4WoO
男「到着ー」
メリー「……いい加減に降ろしなさい」
男「はいよ」
メリー「で、ここは……」
男「身長制限は、うん。ギリギリオーケーっぽいな」
メリー「なんか連続三回転とか書いてあるんだけど」
男「楽しみだなー」
メリー「……他の所はないの?」
男「あるっちゃあるが、僕はこれに乗りたかったんだ」
メリー「わたしはいいわ。あっちのベンチに座ってr」
がしっ
男「幸いにも並び時間はさほど長くない、一緒に乗ろうか」
メリー「イヤ!こんな物騒なものなんかに乗りたくない!」
男「普段ではありえない、物騒なものに乗れるからいいんじゃあないか。まさか君ともあろう者が恐がっているのか?」
メリー「……」
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:36:11.08 ID:Ig2wW4WoO
男「……本当に三回転で終わったな。大したコースじゃなかったし、まぁ意外と子供向けというか君向けだったんじゃないか」
メリー「……」
男「おーい、メリーさん?[自主規制]された時みたいな目になってますよ?」
メリー「……あなたって本当に最低のクズだわ」
男「ごめんごめん。やっぱり恐かったんだな、そこのベンチで休もうか」
ふらふら
メリー「恐いんじゃなくって、気持ち悪かった」
男「三回転もすりゃ気持ち悪くなるわな」
メリー「たぶん、眼つぶってたから尚更……」
男「誰かのキスでも待ってたのか」
メリー「ば、バカ!あの状況の中、そんな理由で目つぶるわけないでしょ!」
男「ならどうして?」
メリー「それは、こわ……」
男「こわ?」
メリー「……るっさい!それよりゆっくり休ませなさいよ!」
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:37:58.49 ID:u1Jk+Dl2O
ふむ
101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:41:08.23 ID:Ig2wW4WoO
男「まだ気持ち悪いのか?」
メリー「うん……」
男「よし、僕が気持ち良くしてやろう」
すっ
メリー「……変態」
男「え?手を触ろうとしただけで変態呼ばわり?」
メリー「……気持ち良くするって、何するつもりなのよ」
男「ほらよく言うじゃないか、手の平にあるツボを押すと気持ち悪さが取れるって」
メリー「先に言いなさいよ!」
男「そ、そこまで怒ることだったか……?」
メリー「はぁ、ここにずっと座ってたって仕方がないわ……なんだかお腹も空いてきたし」
男「これはつまり遠回しに何か食わせろと言っているのか」
メリー「あ、あれチュロスだって。そうね、甘いものが食べたいわ」
男「いつの間にやらメリーに逆らえないフラグが立っている気がする」
103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:46:28.83 ID:Ig2wW4WoO
ぱくぱく
メリー「……んふふ」
男「歩くか食うか笑うかどれか一つにしなさい、お行儀が悪い」
メリー「チュロスって歩きながら食べるものじゃないの?」
男「いやツッコむところはそこじゃ……お、欠片が口元に付いてる」
ひょい
メリー「あ……」
男「ん?」
ぱく
メリー「……!!」
男「こんな小粒程度じゃあなぁ。ま、甘さが舌に残るだけでも充分か」
メリー「……そうやって、いつもいつも女の人を誑してるのね。わたしは騙されないわ」
男「あの、すみません、何のことだかさっぱり」
メリー「一生悩んでればいいじゃない」
娘を持つ父はこういうことが茶飯事のように起きていて、毎日首を傾げているのだろうか?……だとしたら、今の僕はそれに近づいてきているのかもしれない。
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:47:55.52 ID:ewDG8h5/0
支援
こういう雰囲気好きだ
105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:52:06.59 ID:Ig2wW4WoO
──その一時の時間は長いように見えて短いものだ。
誰も催促しちゃいないのに、時計の針はどんどん速く回り続ける。
メリーはそんなこともお構いなしに振る舞い、今日の楽しい時間を精一杯過ごした。
明日があるさと言うように。
男「早いな。夕時だよ、もう」
メリー「ん」
男「なんだかんだ言って楽しめたよな」
メリー「……まあまあね」
男「まあまあ、か。イベントのパレードの時にはめちゃくちゃはしゃいでたくせにな」
メリー「べ、別にはしゃいでなんかなかったわ!大体、今考えてみると幼稚よ、あんな劇」
男「でもその時に楽しんでたことは事実だろ?」
メリー「……ん」
男「さって、最後に一つ何か乗って帰ろうか。今日一日僕がリードしてやったんだから、最後は君が何に乗りたいか選んでくれ」
メリー「ねえ、あなたってバカなの?最後なんだからあなたが選ぶも私が選ぶも、あれしかないじゃない」
男「……あれ」
106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:57:22.33 ID:Ig2wW4WoO
「はいどうぞーお乗りくださーい」
男「雰囲気的にこれってわかるけどさ、いや、しかし……」
メリー「何ぶつぶつ言ってるの?ほら、はやく」
ぐっ
男「あー……遂に乗り込んじまった」
メリー「……もしかして最後に観覧車じゃ嫌だった?」
男「嫌じゃない、むしろこれでいいんだ、克服するためにも」
メリー「克服?」
男「HAHA、ナンデモナイヨメリーチャン」
メリー「……」
男「……」
別に僕がふざけたから空気が沈下したんじゃない。
かと言ってここに乗り込んでから、僕は高所恐怖症だからと告白して気まずくなったわけでもない。
この空気は僕が話し始めるのを待っている空気だ。
メリーの失った記憶を今、僕が埋めてやるしかないんだ。
108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:59:00.96 ID:ty6xULFK0
ロリーさんは可愛いなー
109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:02:36.38 ID:Ig2wW4WoO
男「……メリー──」
メリー「わたしね、今日、とっても楽しかった」
男「え、あ、ああ」
メリー「ここの遊園地が面白かったっていうのもあるけど、あなたに会えたことは元より、あなたと一緒に過ごせたことが何よりも楽しくてうれしかった」
男「そう言ってもらえると、うん、照れるな」
メリー「ありがとう、しがない仕事人さん」
男「どういたし……ん?」
『はじめまして、しがない仕事人の男と言うものです』
男「君……」
メリー「……記憶はちゃんとあったの。でも、思い出せなかった」
メリー「ううん、思い出したくなかった。記憶に触れるのがつらくて嫌だったわ」
メリー「だけど今日が楽しかったから、つらいことを思い出せた」
メリー「そういう意味でもありがとう、男さん」
こちらから話すまでもなかったらしい。僕は意図せずに行動したことで彼女の脳を和らげていたんだ。
ただ、彼女の言う「つらいこと」の予想はつくが、具体的な話を僕は知らない。これから聞かされることになるだろうが──。
111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:07:26.35 ID:ceb7lbavO
がちゃり
「──ただいま、お父さん」
「なんて、いないけど……」
「……今度の三者面談、来れるのかな……」
「どうせまた仕事……ね」
すたすた
「あれ?机に……」
「……なんでお父さんのカバンがあるの?もう帰ってきてるの?」
「でも靴はなかったし……」
「……お父さーん、いるのー?」
ひらっ
「えっ」
「紙?」
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:13:08.78 ID:ceb7lbavO
『──お父さんはもうダメなんだ』
『借金も返せないし仕事も上手くいかない』
『おまえを養えなくなってしまった』
『この先こんな俺の背中を見て、お前が立派な大人になれるとは思えなかったんだ』
『おまえのことを愛していたが、もうそんな資格は俺にはないだろう』
『あるだけの財産は残しておく』
『あと、おまえがいつも会いたがっている人の電話番号を載せておく。困ったときに相談でもすればいい』
『すまない』
『 どうか許してく れ』
「…………え」
「なにこれ」
「ねえ、三者面談は?」
「来ないの、お父さん」
「来てよ」
113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:14:18.61 ID:QZOprWrt0
トーチャン…
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:18:10.47 ID:ceb7lbavO
「──そこから自分の名前も昔の記憶も何もかも忘れてしまって、紙も捨てたのに、なぜかお父さんが書き記した電話番号だけが記憶に焼き付いてて」
「あなたにたどり着いたの」
「その後は電話するだけ、ひたすらあなたの声を聴くために電話した」
「……ずっと家にいたから。寂しくて、怖かったから」
「お父さんがいなくなって、毎日家の扉がドンドン鳴って、家の電話もガンガン鳴り響いてた」
「もちろん全部出なかったわ。一つでもどれかに応対してたら、あなたに二度と電話出来なかったかもしれないから」
「……その内、あまりにもうるさすぎて耐えられなくなって『あなたの家を探す』という名目で家を出た」
「だけど外に出たって孤独は続いて……」
「……でもあなたとあなたのお母さんが孤独を打ち消してくれた」
「これが今覚えているわたしの記憶のすべて」
「もう、言い残したことは何もないわ」
115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:23:49.95 ID:ceb7lbavO
男「……」
メリー「……」
男「……ちょっといいか?」
メリー「なに?」
男「頂上まで来たな」
メリー「うん」
男「すごく恐い」
メリー「……は?」
男「……」
メリー「……ジェットコースターには乗れるくせに、観覧車は恐いってなんなのよ」
男「『しっかりして、お父さん!』って言ってくれれば立ち直れるかも」
メリー「む……無理よ。恥ずかしくて……急にそんな風には、」
男「……」
メリー「……し、しっかりして、おと……お、おとう……男、さん」
男「……はは」
116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:28:30.99 ID:tuLWb9lyP
ええのう…
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:29:11.75 ID:0vrxzgqm0
なけてきた
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:29:19.79 ID:ceb7lbavO
男「もう出ちまったし、車の所に戻るかー」
メリー「……」
男「ん、どうした」
メリー「……ごめんなさい」
男「……はあ」
メリー「楽しくおしゃべりして明るくはしゃいで、最後まで暗くなることなく帰りたかったのに、わたしのせいで……」
男「このドラ娘め、謝る必要なんてどこにもないだろうが」
メリー「ううん、ちゃんと謝らなきゃ……」
男「そう思うなら行動で示してみろ。これから君は一人じゃなくなるんだ、近くの誰かがいれば永遠に暗くなることなんてないってことを、理解してくれ」
メリー「……」
男「そしてあわよくば僕をお父さんと呼んでくれ」
メリー「……急には無理って言ったでしょ」
男「立派なお父さんになって、呼んでくれる日を楽しみにして待ってるから」
メリー「……」
メリー「……もう」
119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:34:54.35 ID:ceb7lbavO
男「んじゃ、帰るか」
メリー「……うん」
ブロロロロロ
助手席のメリーはずっと外側の窓の方を向いていた。
あれだけはしゃいだのに、眠くないのだろうか。
男「なあメリー」
メリー「……」
男「前に言っただろうけど。今日な、僕の仕事仲間と警察が同僚の家……君の家に押し入って家宅捜索をするんだ」
男「いや、もう終わってる頃だな、時間も時間だし」
男「それでな、君がいることを証明するためにも、その人たちの元に君を……」
メリー「……すう……」
男「……」
男「そうだな、今日は疲れたし明日でいいか」
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:35:38.05 ID:C7vt5p3A0
支援
121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:40:43.16 ID:ceb7lbavO
男「家に着きましたよ、お嬢さん」
メリー「ん……もう?」
男「さあ出た出た」
がちゃ
メリー「……速いのね」
男「そうだな……おし、この車のキー、お袋に返しといてくれ」
メリー「なんでわたしに頼むのよ、自分で返せばいいじゃない」
男「僕、もう家に帰るから」
メリー「えっ……と、泊まっていったりとか、しないの?」
男「したいところだけど、明日は仕事があるんだ」
メリー「……」
男「それに僕の家はここから結構遠いから、今帰らないとやばい時間になっちゃうしな」
男「明日また来るからさ」
メリー「……」
122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:45:26.81 ID:ceb7lbavO
男「じゃあな、おやすみ」
メリー「待って!」
男「?」
メリー「そ……の……」
男「呼び止めた理由はなんだ、はっきりと言いなさいはっきりと」
メリー「……」
たたた
男「?」
メリー「ばいばいっ、お父さん!」
ちゅっ
たたた ばたん
男「……」
男「バイバイ、メリー」
そうさ、明日がある。
時を待てば、君は大人になれるんだ。
123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:47:35.35 ID:zU/iS+DhO
グハッ(゜Д゜)
124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:50:53.49 ID:ceb7lbavO
結局、家に着く頃には深夜帯を回っていた。
男「早く寝ないとな……」
部屋を移動しているとある物に目が留まる。
電話の留守電ボタンが点滅している。きっと例の仕事仲間からだろう。
眠気が半端じゃないが、押してみた。
「──○○だけど、ケータイで掛けてる。今、ほら、亡くなった同僚の家に警察と一緒に入っててさ」
「あいつの遺書っぽい紙が見つかったよ、ゴミ箱に入ってた」
「具体的には言えんけどその紙にはお前の電話番号が記されてて──いやまあそれよりも今は、もっと酷いことになってるんだ」
「……あいつの、同僚の娘さん、いただろ?」
「その娘さんがな、この家の中で、自分の腹に包丁突き立てて、死んでたんだよ」
「なんていうのかね、腐敗臭って奴が凄くてな、たぶんあの娘さんも自殺して数週間経ってるよ、たぶん」
「かわいそうだよな、父親がいなくなったからその後を追────」
ぶつっ
男「……──?」
125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:53:15.16 ID:EUOOZOFh0
うう•••続けてくれ
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:53:17.32 ID:VfaqJvB/O
……んん?
127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:53:35.83 ID:stdz7lJRO
oh……
128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:54:18.42 ID:PvmKsODT0
ハッピーエンドじゃないのかよぅ
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:57:11.56 ID:a6QevZi30
嘘…だろ…
130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:57:57.70 ID:8tzSSuPb0
うせやん…
131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:59:46.56 ID:ceb7lbavO
お袋の家に電話をかけた。お袋が出た、眠たそうな声を出していた。寝ていたのだろう。
お袋に、そこにメリーがいるか確かめるように促した。
数秒経って、ほんの微かに小さな声が耳に届く。お袋の声だ。
「いなかった」お袋はそう言った。
お袋は混乱していた。無論、僕もだが。
メリーが同僚の家で死んでいた?
しかも死んで数週間経っている?
ならさっき会ったメリーは何だ?
今までのメリーは誰だったんだ?
僕は一体誰を相手にしてたんだ?
明日は、もう来ないのだろうか?
机に突っ伏して、とにかく考え込んだ。
メリーはどこに────
132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:06:21.65 ID:ceb7lbavO
男「……」
朝だ。
どうやらいつの間にか寝ていたらしい。
頭が痛い。
だが仕事に行かなくちゃいけない。
しかし気力が出ない。
メリー。
僕を一度だけお父さんと呼んだメリー。
二度とその声と言葉を聞くことは無い。
涙は出なかった。
何がなんだか今でも理解できていなかったから。
男「……」
電話の留守電ボタンが点滅している。
ああそうか、もう仕事が始まってる時間だ。みんなカンカンに怒ってるんだろうな、だから電話を掛けてきたんだろう。
無気力ながら、ボタンに手を伸ばす。
133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:06:44.71 ID:FNJvbIO+O
メリーたん・・・
134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:08:28.93 ID:ceb7lbavO
「────……」
「わたし、メリーさん」
「……言い残したことは何もないって言っちゃったけど、まだあったわ」
「この『メリー』って名前、すごく好きなの」
「元は『メリーさんのひつじ』を聴いてから好きになったんだけど」
「昔、あなたがわたしのことをそう名付けて、呼んでくれたから、」
「とても、とっても大好きなの、この名前」
「すてきな名前で呼び続けてくれてありがとう」
「……あと」
「わたし、お父さんを愛してるわ」
「たとえ一日だけのお父さんだったとしても……」
「わたしにとってその日は記念日で、あなたが『お父さん』の日だから、覚えておいてね」
「……時間がないから、最後にもう一言」
「わたし、メリーさん。あなたの娘でいられてしあわせでした」
ぶつっ
135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:10:38.82 ID:EUOOZOFh0
全俺が泣いた
136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:11:03.45 ID:ceb7lbavO
男「……」
いつもの声。
メリーだった。
今、ようやく気付いた。
そうだ、メリーは『お父さん』を求めていた。
あのメリーは死んでも死にきれず、『お父さん』を探していた。
そして昨日、僕が『お父さん』になってあげた。
涙が止まらなかった。
悲しい涙じゃない、これは嬉しい涙だ。
メリーは満足したんだろう。
満足して、お父さんと一緒になれたんだ。
137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:11:12.81 ID:PvmKsODT0
やばいww俺も泣きそうww
138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:11:16.01 ID:XIH9HZl4O
バッドエンドは許さない
絶対にだ
139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:13:28.75 ID:VfaqJvB/O
何故だかメリーさんの話はこういうのが多い気がしてならないのは気のせいか?
……メリーさん…
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:13:55.04 ID:zU/iS+DhO
いやもうね・・・
涙 が と ま ら ん
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:15:30.56 ID:mnin08FkP
だってメリーさんは、幽霊のお話なんだもの
142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:15:55.01 ID:mZHYVMMN0
>「わたし、メリーさん。あなたの娘でいられてしあわせでした」
(´;ω;`)ぶわっ
143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:16:18.90 ID:ceb7lbavO
──幾年かの月日が経った。
『記念日』が来る度に、僕は二人のお墓に足を運んでいる。
男「お、まだ無事だな、良かった」
足を運んでは、墓にずっと置いてあるお供え物に手を出している。
彼女が僕の実家に置きっぱなしにしていたものだ。
罰が当たるかもしれないが、彼と彼女のために毎回こうしている。
決して悪いことではないと思う。僕があげたものなのだから。
男「よし、鳴らすぞ」
〜〜〜
かつて、彼女が好きだった音色を響かせた。
そのお供え物から発せられる曲につられてやってきたならば、君はこう言うだろう。
わたし、メリーさん。
おわり
144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:17:27.44 ID:ceb7lbavO
はいおしまいんちゃん
短かったけど付き合ってくれてありがとう
145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:19:26.43 ID:4rhKp+Cs0
乙
最初の会話みたいなのを
もうちょっとお願いしたい
146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:19:42.45 ID:VfaqJvB/O
>>1乙
147 :おじちゃん ◆saeki/0sD. :2010/08/13(金) 01:19:48.84 ID:nSm8bB+4O
思わず泣いた。
2ちゃんって、ニュー速ってこんなんあるから好きなんだよな。
ありがとう
(´・ω・)
148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:20:30.05 ID:lYlDTryRO
最初何番善次だよとか思ったらこんなシリアス展開とは
なかなか良かった
154 :おじちゃん ◆saeki/0sD. :2010/08/13(金) 01:22:55.36 ID:nSm8bB+4O
ぜひ>>1にはグッドエンディングで終わるストーリーを書いてもらいたい。
きっといい作品できそう
(´・ω・)
155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:23:17.57 ID:a6QevZi30
自称メリーさんは嘘でもなかったんだね…
メリースレはいつ見てもいいな。乙
156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:23:29.13 ID:hMcF5/3FO
徹夜で作業しなきゃいけないのに
ううチクショウ
でも>>1乙
157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:23:51.40 ID:mZHYVMMN0
いい話だった
乙
またどこかで会えるのを楽しみにしてるぜ
158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:24:16.03 ID:hMcF5/3FO
>>154
確かに別のストーリーでやってもらいたいな
159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:24:49.89 ID:zU/iS+DhO
乙だよ
160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:25:00.21 ID:EUOOZOFh0
>>1乙
最初から読んでただけにラストはキタ
161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:25:08.71 ID:ceb7lbavO
なんか続き求められてるレスあるけど
すまん、書いた俺が言うのもなんだけどこれ以上は蛇足になりえると思う
だから一つの短い物語として終わらせといてほしい
162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:26:22.48 ID:hMcF5/3FO
メリーたんと男と>>1乙
出会えたことに感謝
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:27:31.93 ID:hMcF5/3FO
>>161
無論それがいいと思う
またいつか別の話を書いてくれ
165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:30:03.50 ID:lYlDTryRO
何か親っていいもんだな
俺も早くなりたいがなるための相手も仕事もない…
187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 09:07:33.22 ID:mZHYVMMN0
続編書いてとは言わないけど
新しく話を考えて欲しい
男「はいはい保留解除っと。で、なんだっけ?」
メリー「……ほんと、ムードを感じ取れない人ね」
男「恐れ入る」
メリー「……先に言っておくわ、ごめんなさい」
男「ん」
メリー「わたしって、何回か、あなたが何をしていたか当ててみせた時があったじゃない」
男「僕が仕事から帰ってきた時とか、家に篭もってる時とか」
メリー「そう。あれ、全部嘘なの。本当は勘で言ってたの」
男「知ってるよん」
メリー「……へっ?し、知ってる?」
男「君のことだから、嘘でもメリーさんらしくしておきたかったとか、そんな理由で見栄を張ってたんだろう」
メリー「う……」
男「最初は驚いた。しかし期待を裏切って悪いが、だいたい僕は君があのメリーさんだなんて、初めから信じてなかったぞ」
メリー「……」
男「おっと、改行規制が。まあいいか、保留にしなくても。このまま話を続けようか」
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:48:17.81 ID:Ig2wW4WoO
メリー「だからわたしは、本当のメリーさんみたく怪奇現象を起こせるわけでもないし、あなたを恨む理由もない」
男「ならば、どうして僕の電話番号を知っているのか、どうして君は『メリーさん』なのか。もう一度そこから考えてみようず」
メリー「……わからないわ、記憶が無いもの」
男「厄介だな、記憶喪失。というか君から聞いた限りの情報じゃ曖昧すぎる。どこからどこまでの記憶が吹っ飛んだのか、それを知りたいんだが」
メリー「ねえ、そんなことはもう、どうだっていいの。わたしが普通の女の子だってこと、これだけでもあなたにわかってもらえれば、それでいいの」
男「おーい、真面目に考えてやってる僕をさて置いて、記憶を無くした本人が思考放棄ですか」
メリー「……記憶を取り戻して、わたしにどうしろって言うの?親がいなくて、帰れる所もないわたしに……」
男「辛いだろうが、君にとって思い出すべき大事な記憶もあると思うぞ」
メリー「そんなものいらない!だからっ、あなたに会いたいの!」
男「……」
メリー「いつの間にか独りぼっちで、悲しくて怖くて寂しくて。あなたに会いたくて、甘えたくて、ずうっと我慢してたんだから!」
男「……なあ、後ろの方でお袋が何か言ってるだろ。君のことを気にかけて──」
メリー「なって……なってよ、わたしのお父さんになってよ!」
ぶつっ
65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:52:31.48 ID:dXGFQNHM0
猛烈にしえん
すげー面白い
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:53:22.27 ID:Ig2wW4WoO
彼女のとんでもない爆弾発言に驚き、ついつい電話を切ってしまった。
でもまあ、少しでも彼女の思いを理解できたからよしとする。あれが、彼女のありったけの素直な気持ちなんだろう。
兄でも彼氏でも旦那でもなく、お父さんになってと彼女は言った。
それも先の発言によると、僕に会いたいとか──それらの本音を吐き出すことを、ずっと我慢していたらしい。
…………待てよ。
なぜ『お父さん』なんだ?
今、彼女の側には僕のお袋がいる。包容力のある『お母さん』じゃダメなのか?
…………。
もしも、彼女が父子家庭だったとしたら……。
…………。
…………。
……知り合いに一人、子供と二人で暮らしている人がいた。
僕の勤務先の同僚で、僕より年上の、とても穏やかな人だ。
だけど、その人は、
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 21:58:15.40 ID:Ig2wW4WoO
男「あ、お袋さん、今日も麗しい美声ですね。はいはい普通のお世辞だから気持ち悪いとか言わない。あのとんちき娘に替わってくれないか?」
メリー「……もしもし」
男「よ。こっちから掛けてみた、仮にも実家だしな」
メリー「今、あなたとは話したくないわ」
男「いや、昨日はすまなかったけど、そう言うなよ。声を交わすだけじゃないか」
メリー「……用件は何?」
男「たまには僕の方から話を振ってやる。おとなしく聞いていたまえ」
メリー「聞いてるだけでいいの?」
男「……相槌くらいは必要だよな、うん」
メリー「はあ……わかった。早く話して」
男「まず、僕には仕事の同僚、っつか友達がいるんだ。奥さんとは離れた、子持ちのな」
メリー「つまり、その人は離婚済みなの?」
男「そんなストレートに言うな。でも、離婚した理由が見つからないほど温厚で優しい人なんだよ。浮気もしなさそうな、誰かの為にがんばれるタイプの人間で」
メリー「いい人なのね。それで?」
男「最近、自殺したみたいなんだ、その人」
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:03:18.89 ID:Ig2wW4WoO
メリー「じ……さつ?」
男「ああ。外の、滅多に人が通らない場所で。実際に遺体が見つかったのは、そうだな、僕が『ごたごた』があったって言った日だな」
メリー「……」
男「それも自殺してから数日経ってるって。道理で勤務先に顔出さなかったわけだよなぁ」
メリー「な、なんて言えばいいか、わかんないけど……あの……」
男「励ましはいらん、案外元気だから。ただ遺体が見つかる前に、その人の家を訪問したり、電話したり、何日も繰り返したわけだが」
メリー「……うん」
男「一度も応答が無かった。……この時点で、おかしいと思わないか?」
メリー「え?」
男「子供がどこにもいないみたいなんだ。通ってた学校にも来ていない、父と一緒に遺体が発見された訳でもない」
メリー「……ねえ、その話、なんか怖くて聞きたくないわ、いつ終わるの……?」
男「すまん。とにかく一言で言えば、子供が行方不明という話」
メリー「本当にそれだけ?あなたは……大丈夫なの?」
男「大丈夫だって。それより、心配するなら今の話の子供だ。明日か明後日には僕の、その、死んだ友達の家を強行して入って、捜索するっていうから、もしかしたら……」
69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:08:16.20 ID:Ig2wW4WoO
男「で、唐突だが君に質問ターイム」
メリー「……急に何よ」
男「君に母親はいたのか?」
メリー「いると思うわ、『思う』だけ。……何度も言うけど、記憶を失ってるの、わたし」
男「君の家にはアルバムとか、思い出が残されている物が一つも無いということだな?」
メリー「……知らない。探してないもの」
男「なら、父親は?」
メリー「もう、やめて。詮索しないで」
男「友達すら覚えてないわけは無いよな?」
メリー「……やめてってば」
男「なあ、メリー。明日にでも会おうか、僕と」
メリー「……」
男「そんで君の家に案内してもらって、思い出を一緒に探してやる。それでいいんじゃないか?」
メリー「やだ、やだっ!やめてよ、そんなものいらない……いらないんだから!」
──僕はこの子の正体を、つい最近知ってしまった。しかしそれとは別に、この子自体を知ったのは、今から何年前のことだろうか──。
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:09:33.32 ID:NW4GStWcO
これはくっついてほしい
父と娘の関係じゃつまらん
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:11:45.72 ID:Q9T0lbrD0
なんかちょっと怖い
72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:13:17.21 ID:Ig2wW4WoO
同僚「──ありがとう、わざわざ娘の誕生日に来てくれて」
男「僕で良ければ、な。大したプレゼントは持ってこれなかったけども」
同僚「娘を祝ってくれるだけでもありがたいことさ」
男「……お邪魔します。ん?」
「…………」
男「はじめまして、しがない仕事人の男と言うものです。お父さんから聞いてない?」
ふるふる
男「え、聞いてないって。そうしたら僕は君にとっちゃただの恐いおじさんじゃないか」
同僚「こら、この前話しただろう。おまえを祝ってくれる人が来るって」
「…………」
ふるふる
男「聞いた覚えはないらしいですよ、『お父さん』」
同僚「……はは、こいつは照れ屋でね。こういう時に困るんだ」
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:18:05.94 ID:Ig2wW4WoO
同僚「包丁包丁、っと」
男「手伝おうか」
同僚「三等分にするだけだが……」
男「いや、上手く切れるかなって」
同僚「馬鹿にするんじゃない。こんなくたびれた手でも、毎日娘に飯を作ってきてやったんだ、これくらいは出来る」
男「さすがお父さん」
じー
男「……そうだな、当事者の君を祝うつもりで来たんだ。先にプレゼントを渡しておこうか」
「…………」
男「これ、開けてごらん」
「……?」
男「爆弾じゃないから安心していいよ」
「……あ……」
74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:23:09.89 ID:Ig2wW4WoO
男「オルゴールっていうんだ。使い方はわかる……かな?」
「…………」
男「ここのネジを巻くと」
〜〜〜
「……この曲」
男「わかる?」
「うん、好きな曲」
男「へえ、よかった。プレゼントして正解だったよ」
〜〜〜
「名前が好きなの」
男「名前?」
「曲の名前。可愛いから」
男「じゃあひつじが好きなんだ」
「ううん、違う」
男「違う?ああわかった。今日は君に可愛い名前を付けて、こう呼ぼう──」
75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:28:05.33 ID:Ig2wW4WoO
男「……メリーさん」
メリー「……もう切るわ」
男「好きな曲を教えてくれないか?」
メリー「は……?別に、無いけど」
男「当ててみせようか」
メリー「無いって言っ」
男「メリーさんのひつじ」
メリー「て……」
男「君の家にそのオルゴールがあるだろう」
メリー「…………どうして?」
男「僕が君にあげたから」
メリー「……ちょっと待ってて」
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:33:10.88 ID:Ig2wW4WoO
メリー「ね、この音、聞こえる?」
〜〜〜
男「ああ、これだよ、メリーさんのひつじの……オルゴール」
メリー「記憶の端っこで、これは大事なものだってことだけ覚えてたから、家を出る際に持ってったの」
男「……自身を必死に『メリーさん』だと自称していた理由はそれか。とんだメリーさん違いだな」
メリー「……あなただったのね、これ、くれたの」
男「思い出したか?」
メリー「……ううん、何も」
男「……そうか」
メリー「わたしとあなたは知り合いだった。それを証明出来ただけでもいいじゃない、あとは何もいらないわ」
男「……なあ、その言葉の意味はわかってるよな?」
メリー「え?」
男「君は僕を知らなくても、僕は君を知ってしまったことになる」
メリー「……」
男「僕は君に、君のほぼ全てを教えなくちゃいけないんだ」
77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:38:06.77 ID:Ig2wW4WoO
男「聞きたくないよな」
メリー「……」
男「だけど聞かせなくちゃいけない。一つの繋がりを証明してしまった以上、もっと他の繋がりを証明させる必要がある」
メリー「……」
男「……さっき話した同僚の子供、それは……」
言ってもいいのか?
言わないと先に進まないんだ、だけど。
まだこんな幼い子供に言う必要があるのか……?
男「…………」
メリー「……明日、会えばいいじゃない。ここで待ってるから」
男「あ……ああ」
メリー「そして、会って、言って」
そこで電話は切れた。
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:43:08.15 ID:Ig2wW4WoO
ぴん ぽーん
男「お袋さーん、僕ですよ、僕ー」
男「おいおい、ここまで来たのに入れないとか……」
がらっ
男「……お?」
男「おはよう、メリーさん」
メリー「……」
容姿は変わっているが、辿々しくてあどけないその様は何年か前に会った同僚の娘と同じで、目の前の少女は確かにあの娘のままだった。
男「一応、君は記憶を失っている様だから、はじめましてとも言っておく」
メリー「……わたしが」
男「ん」
メリー「わたしが想像していたほど、格好良くない」
男「イメージを崩してしまってどうも悪うございましたよ」
メリー「でも温かくなるわ、あなたを見てると」
男「……玄関だから、日照りのせいで熱く感じるんだよ。そろそろ中に入れてくれ」
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:48:08.23 ID:Ig2wW4WoO
男「お袋、勝手にクーラー付けさせてもらうよ。え、扇風機がある?」
メリー「知らないの?クーラーの風ばかり浴びてると暑さに対する免疫が薄れていくのよ」
男「なんというか、会ってみて改めて感じるよ。君はませた子だな、って」
メリー「……うるさいわね」
男「はは」
メリー「……」
僕は何をしにここへ来たんだ。この子の顔を拝むため?いいや、それだけじゃないだろう。
僕は……。
男「決めた」
メリー「……?」
男「君を遊園地に連れて行こう」
メリー「え、な」
男「お袋、この子と遊園地に行ってくる。車のキー貸してくれ」
メリー「ちょっ、待っ」
男「そんなに遅くならないから心配しなくていい。んじゃ行ってくる」
82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 22:56:25.91 ID:NeN9AQpoO
なんか初恋の時の胸のトキメキを思い出すわー
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:03:16.76 ID:Ig2wW4WoO
ブロロロロ
男「君はすぐに酔うタイプ?」
メリー「別に」
男「そうか。じゃあ飛ばして行こうかね」
メリー「ねえ、話って」
男「音楽でもかけるか。えーっと、井上陽水、天童よしみ……なんだこりゃ、最近のはないのかよ」
メリー「……」
男「お袋は僕より昔を生きた人だからなー。よしメリー、君の十八番を歌うんだ」
メリー「急に何よ」
男「君にメリーさんのひつじを歌ってもらおうと思う」
メリー「イヤに決まってるでしょ!その井上なんとかって人の歌でいいじゃない」
男「でもな、これ子供向けじゃない……」
メリー「どうでもいいから付けなさいよ……ああもう、わたしがやるわ。ここ押せばいいの?」
男「そこ、だけど……まあいいか」
「──夏が過ぎ かぜあざみ──」
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:05:04.00 ID:Kp12SNW/0
少年時代・・・
89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:08:12.00 ID:b9P/18XU0
秋が近いのかねー
90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:11:03.37 ID:Ig2wW4WoO
「────私の心は 夏模様」
メリー「……」
男「いや、僕はこの歌好きだけどな、君にとっては面白くも何ともないだろう」
メリー「……わたしは、きっとこんな風にはなれないわ」
男「こんな風?」
メリー「『あの頃は良かった』って言えるような今の、少女でいられる時代を、もう生きられないもの」
メリー「季節の流れも感じられずに、しんでいくもの……」
男「……」
メリー「見本となる親の背中を見ないで成長する子供なんていないわ。……わたしは大人になれないのよ、もう」
男「……だから今日、君を遊園地に連れていくんだ。思い出を作りに」
メリー「形だけの同情なんていらない……あなたはお父さんになれないじゃない」
男「本当の親じゃなくても、君を立派な大人にしてやれるだけの技量はあると自負してるよ、僕は」
メリー「……」
……頼まれたからな──。
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:16:12.21 ID:Ig2wW4WoO
男「──どうした、最近元気がないな」
同僚「ああ、男か……」
男「仕事も手付かずみたいじゃないか、何か悩みでもあるのか?」
同僚「俺、思うんだ。別れた妻は、今頃どこかの見知らぬ誰かに『あの人は馬鹿だった』って言い続けてるんじゃないかって」
男「そんなことは、」
同僚「そうなんだよ、男手一つで一人の娘を養えるわけがなかったんだよな……」
男「養えてるじゃないか、今充分に」
同僚「……借金を抱えて生きてるんだ、充分な訳がない」
男「な……借金?どうして、もっと早くに」
同僚「言ったところでどうしようもないさ。……男、俺のお願いを聞いてくれないか」
男「……ああ、金なら貸してやる。いくら──」
同僚「俺に何かあったら娘を頼む」
95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:21:05.98 ID:Ig2wW4WoO
男「着いた着いた。いやしかし暑いな、人だらけじゃないか」
メリー「本当に入るの?」
男「ああ。こういうところは苦手か?」
メリー「……ちょっとだけ」
男「じゃあ、ほら」
メリー「なに、その手」
男「繋げば少しは落ち着くんじゃないか?」
メリー「べっ、別に……」
男「そうか、嫌なのか。なら仕方ないな」
ぎゅっ
メリー「……これでいいんでしょ、これで」
男「んー?なんか手汗が凄いな、君」
ばっ
メリー「こ……っのバカ!最低!もう帰る!」
男「おい待てって、僕達の番来ちゃったよ。あ、すみません、大人と子供一人ずつでお願いします」
97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:26:17.51 ID:Ig2wW4WoO
男「さーて、どこのアトラクションに行こうか、メリーさん」
メリー「……適当に行けばいいじゃない」
男「まださっきのことを根に持ってるのか?ちゃんと謝っただろう」
メリー「そうじゃない!……こういうのは男性がリードするものでしょ、ふつう」
男「この場合は残念ながら男性女性の問題じゃないな。大人は子供の意思を優先する、それだけだ」
メリー「っ……何よ、勝手に連れてきたくせに」
男「へーえ、ほーお、君はそういうことを言うのか。ならばこっちにも考えがある」
ぎゅっ
メリー「痛っ。き、急に引っ張らないでよ」
男「じゃあこうした方が良かったか?」
メリー「……!?」
ぐい
メリー「やっ……お、降ろしてよ!ちょっと、やだ……」
男「軽い軽い。これでだいぶ楽になったな」
メリー「もぉやぁ……恥ずかしい」
98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:31:04.50 ID:Ig2wW4WoO
男「到着ー」
メリー「……いい加減に降ろしなさい」
男「はいよ」
メリー「で、ここは……」
男「身長制限は、うん。ギリギリオーケーっぽいな」
メリー「なんか連続三回転とか書いてあるんだけど」
男「楽しみだなー」
メリー「……他の所はないの?」
男「あるっちゃあるが、僕はこれに乗りたかったんだ」
メリー「わたしはいいわ。あっちのベンチに座ってr」
がしっ
男「幸いにも並び時間はさほど長くない、一緒に乗ろうか」
メリー「イヤ!こんな物騒なものなんかに乗りたくない!」
男「普段ではありえない、物騒なものに乗れるからいいんじゃあないか。まさか君ともあろう者が恐がっているのか?」
メリー「……」
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:36:11.08 ID:Ig2wW4WoO
男「……本当に三回転で終わったな。大したコースじゃなかったし、まぁ意外と子供向けというか君向けだったんじゃないか」
メリー「……」
男「おーい、メリーさん?[自主規制]された時みたいな目になってますよ?」
メリー「……あなたって本当に最低のクズだわ」
男「ごめんごめん。やっぱり恐かったんだな、そこのベンチで休もうか」
ふらふら
メリー「恐いんじゃなくって、気持ち悪かった」
男「三回転もすりゃ気持ち悪くなるわな」
メリー「たぶん、眼つぶってたから尚更……」
男「誰かのキスでも待ってたのか」
メリー「ば、バカ!あの状況の中、そんな理由で目つぶるわけないでしょ!」
男「ならどうして?」
メリー「それは、こわ……」
男「こわ?」
メリー「……るっさい!それよりゆっくり休ませなさいよ!」
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:37:58.49 ID:u1Jk+Dl2O
ふむ
101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:41:08.23 ID:Ig2wW4WoO
男「まだ気持ち悪いのか?」
メリー「うん……」
男「よし、僕が気持ち良くしてやろう」
すっ
メリー「……変態」
男「え?手を触ろうとしただけで変態呼ばわり?」
メリー「……気持ち良くするって、何するつもりなのよ」
男「ほらよく言うじゃないか、手の平にあるツボを押すと気持ち悪さが取れるって」
メリー「先に言いなさいよ!」
男「そ、そこまで怒ることだったか……?」
メリー「はぁ、ここにずっと座ってたって仕方がないわ……なんだかお腹も空いてきたし」
男「これはつまり遠回しに何か食わせろと言っているのか」
メリー「あ、あれチュロスだって。そうね、甘いものが食べたいわ」
男「いつの間にやらメリーに逆らえないフラグが立っている気がする」
103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:46:28.83 ID:Ig2wW4WoO
ぱくぱく
メリー「……んふふ」
男「歩くか食うか笑うかどれか一つにしなさい、お行儀が悪い」
メリー「チュロスって歩きながら食べるものじゃないの?」
男「いやツッコむところはそこじゃ……お、欠片が口元に付いてる」
ひょい
メリー「あ……」
男「ん?」
ぱく
メリー「……!!」
男「こんな小粒程度じゃあなぁ。ま、甘さが舌に残るだけでも充分か」
メリー「……そうやって、いつもいつも女の人を誑してるのね。わたしは騙されないわ」
男「あの、すみません、何のことだかさっぱり」
メリー「一生悩んでればいいじゃない」
娘を持つ父はこういうことが茶飯事のように起きていて、毎日首を傾げているのだろうか?……だとしたら、今の僕はそれに近づいてきているのかもしれない。
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:47:55.52 ID:ewDG8h5/0
支援
こういう雰囲気好きだ
105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:52:06.59 ID:Ig2wW4WoO
──その一時の時間は長いように見えて短いものだ。
誰も催促しちゃいないのに、時計の針はどんどん速く回り続ける。
メリーはそんなこともお構いなしに振る舞い、今日の楽しい時間を精一杯過ごした。
明日があるさと言うように。
男「早いな。夕時だよ、もう」
メリー「ん」
男「なんだかんだ言って楽しめたよな」
メリー「……まあまあね」
男「まあまあ、か。イベントのパレードの時にはめちゃくちゃはしゃいでたくせにな」
メリー「べ、別にはしゃいでなんかなかったわ!大体、今考えてみると幼稚よ、あんな劇」
男「でもその時に楽しんでたことは事実だろ?」
メリー「……ん」
男「さって、最後に一つ何か乗って帰ろうか。今日一日僕がリードしてやったんだから、最後は君が何に乗りたいか選んでくれ」
メリー「ねえ、あなたってバカなの?最後なんだからあなたが選ぶも私が選ぶも、あれしかないじゃない」
男「……あれ」
106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:57:22.33 ID:Ig2wW4WoO
「はいどうぞーお乗りくださーい」
男「雰囲気的にこれってわかるけどさ、いや、しかし……」
メリー「何ぶつぶつ言ってるの?ほら、はやく」
ぐっ
男「あー……遂に乗り込んじまった」
メリー「……もしかして最後に観覧車じゃ嫌だった?」
男「嫌じゃない、むしろこれでいいんだ、克服するためにも」
メリー「克服?」
男「HAHA、ナンデモナイヨメリーチャン」
メリー「……」
男「……」
別に僕がふざけたから空気が沈下したんじゃない。
かと言ってここに乗り込んでから、僕は高所恐怖症だからと告白して気まずくなったわけでもない。
この空気は僕が話し始めるのを待っている空気だ。
メリーの失った記憶を今、僕が埋めてやるしかないんだ。
108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/12(木) 23:59:00.96 ID:ty6xULFK0
ロリーさんは可愛いなー
109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:02:36.38 ID:Ig2wW4WoO
男「……メリー──」
メリー「わたしね、今日、とっても楽しかった」
男「え、あ、ああ」
メリー「ここの遊園地が面白かったっていうのもあるけど、あなたに会えたことは元より、あなたと一緒に過ごせたことが何よりも楽しくてうれしかった」
男「そう言ってもらえると、うん、照れるな」
メリー「ありがとう、しがない仕事人さん」
男「どういたし……ん?」
『はじめまして、しがない仕事人の男と言うものです』
男「君……」
メリー「……記憶はちゃんとあったの。でも、思い出せなかった」
メリー「ううん、思い出したくなかった。記憶に触れるのがつらくて嫌だったわ」
メリー「だけど今日が楽しかったから、つらいことを思い出せた」
メリー「そういう意味でもありがとう、男さん」
こちらから話すまでもなかったらしい。僕は意図せずに行動したことで彼女の脳を和らげていたんだ。
ただ、彼女の言う「つらいこと」の予想はつくが、具体的な話を僕は知らない。これから聞かされることになるだろうが──。
111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:07:26.35 ID:ceb7lbavO
がちゃり
「──ただいま、お父さん」
「なんて、いないけど……」
「……今度の三者面談、来れるのかな……」
「どうせまた仕事……ね」
すたすた
「あれ?机に……」
「……なんでお父さんのカバンがあるの?もう帰ってきてるの?」
「でも靴はなかったし……」
「……お父さーん、いるのー?」
ひらっ
「えっ」
「紙?」
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:13:08.78 ID:ceb7lbavO
『──お父さんはもうダメなんだ』
『借金も返せないし仕事も上手くいかない』
『おまえを養えなくなってしまった』
『この先こんな俺の背中を見て、お前が立派な大人になれるとは思えなかったんだ』
『おまえのことを愛していたが、もうそんな資格は俺にはないだろう』
『あるだけの財産は残しておく』
『あと、おまえがいつも会いたがっている人の電話番号を載せておく。困ったときに相談でもすればいい』
『すまない』
『 どうか許してく れ』
「…………え」
「なにこれ」
「ねえ、三者面談は?」
「来ないの、お父さん」
「来てよ」
113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:14:18.61 ID:QZOprWrt0
トーチャン…
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:18:10.47 ID:ceb7lbavO
「──そこから自分の名前も昔の記憶も何もかも忘れてしまって、紙も捨てたのに、なぜかお父さんが書き記した電話番号だけが記憶に焼き付いてて」
「あなたにたどり着いたの」
「その後は電話するだけ、ひたすらあなたの声を聴くために電話した」
「……ずっと家にいたから。寂しくて、怖かったから」
「お父さんがいなくなって、毎日家の扉がドンドン鳴って、家の電話もガンガン鳴り響いてた」
「もちろん全部出なかったわ。一つでもどれかに応対してたら、あなたに二度と電話出来なかったかもしれないから」
「……その内、あまりにもうるさすぎて耐えられなくなって『あなたの家を探す』という名目で家を出た」
「だけど外に出たって孤独は続いて……」
「……でもあなたとあなたのお母さんが孤独を打ち消してくれた」
「これが今覚えているわたしの記憶のすべて」
「もう、言い残したことは何もないわ」
115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:23:49.95 ID:ceb7lbavO
男「……」
メリー「……」
男「……ちょっといいか?」
メリー「なに?」
男「頂上まで来たな」
メリー「うん」
男「すごく恐い」
メリー「……は?」
男「……」
メリー「……ジェットコースターには乗れるくせに、観覧車は恐いってなんなのよ」
男「『しっかりして、お父さん!』って言ってくれれば立ち直れるかも」
メリー「む……無理よ。恥ずかしくて……急にそんな風には、」
男「……」
メリー「……し、しっかりして、おと……お、おとう……男、さん」
男「……はは」
116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:28:30.99 ID:tuLWb9lyP
ええのう…
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:29:11.75 ID:0vrxzgqm0
なけてきた
118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:29:19.79 ID:ceb7lbavO
男「もう出ちまったし、車の所に戻るかー」
メリー「……」
男「ん、どうした」
メリー「……ごめんなさい」
男「……はあ」
メリー「楽しくおしゃべりして明るくはしゃいで、最後まで暗くなることなく帰りたかったのに、わたしのせいで……」
男「このドラ娘め、謝る必要なんてどこにもないだろうが」
メリー「ううん、ちゃんと謝らなきゃ……」
男「そう思うなら行動で示してみろ。これから君は一人じゃなくなるんだ、近くの誰かがいれば永遠に暗くなることなんてないってことを、理解してくれ」
メリー「……」
男「そしてあわよくば僕をお父さんと呼んでくれ」
メリー「……急には無理って言ったでしょ」
男「立派なお父さんになって、呼んでくれる日を楽しみにして待ってるから」
メリー「……」
メリー「……もう」
119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:34:54.35 ID:ceb7lbavO
男「んじゃ、帰るか」
メリー「……うん」
ブロロロロロ
助手席のメリーはずっと外側の窓の方を向いていた。
あれだけはしゃいだのに、眠くないのだろうか。
男「なあメリー」
メリー「……」
男「前に言っただろうけど。今日な、僕の仕事仲間と警察が同僚の家……君の家に押し入って家宅捜索をするんだ」
男「いや、もう終わってる頃だな、時間も時間だし」
男「それでな、君がいることを証明するためにも、その人たちの元に君を……」
メリー「……すう……」
男「……」
男「そうだな、今日は疲れたし明日でいいか」
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:35:38.05 ID:C7vt5p3A0
支援
121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:40:43.16 ID:ceb7lbavO
男「家に着きましたよ、お嬢さん」
メリー「ん……もう?」
男「さあ出た出た」
がちゃ
メリー「……速いのね」
男「そうだな……おし、この車のキー、お袋に返しといてくれ」
メリー「なんでわたしに頼むのよ、自分で返せばいいじゃない」
男「僕、もう家に帰るから」
メリー「えっ……と、泊まっていったりとか、しないの?」
男「したいところだけど、明日は仕事があるんだ」
メリー「……」
男「それに僕の家はここから結構遠いから、今帰らないとやばい時間になっちゃうしな」
男「明日また来るからさ」
メリー「……」
122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:45:26.81 ID:ceb7lbavO
男「じゃあな、おやすみ」
メリー「待って!」
男「?」
メリー「そ……の……」
男「呼び止めた理由はなんだ、はっきりと言いなさいはっきりと」
メリー「……」
たたた
男「?」
メリー「ばいばいっ、お父さん!」
ちゅっ
たたた ばたん
男「……」
男「バイバイ、メリー」
そうさ、明日がある。
時を待てば、君は大人になれるんだ。
123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:47:35.35 ID:zU/iS+DhO
グハッ(゜Д゜)
124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:50:53.49 ID:ceb7lbavO
結局、家に着く頃には深夜帯を回っていた。
男「早く寝ないとな……」
部屋を移動しているとある物に目が留まる。
電話の留守電ボタンが点滅している。きっと例の仕事仲間からだろう。
眠気が半端じゃないが、押してみた。
「──○○だけど、ケータイで掛けてる。今、ほら、亡くなった同僚の家に警察と一緒に入っててさ」
「あいつの遺書っぽい紙が見つかったよ、ゴミ箱に入ってた」
「具体的には言えんけどその紙にはお前の電話番号が記されてて──いやまあそれよりも今は、もっと酷いことになってるんだ」
「……あいつの、同僚の娘さん、いただろ?」
「その娘さんがな、この家の中で、自分の腹に包丁突き立てて、死んでたんだよ」
「なんていうのかね、腐敗臭って奴が凄くてな、たぶんあの娘さんも自殺して数週間経ってるよ、たぶん」
「かわいそうだよな、父親がいなくなったからその後を追────」
ぶつっ
男「……──?」
125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:53:15.16 ID:EUOOZOFh0
うう•••続けてくれ
126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:53:17.32 ID:VfaqJvB/O
……んん?
127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:53:35.83 ID:stdz7lJRO
oh……
128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:54:18.42 ID:PvmKsODT0
ハッピーエンドじゃないのかよぅ
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:57:11.56 ID:a6QevZi30
嘘…だろ…
130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:57:57.70 ID:8tzSSuPb0
うせやん…
131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 00:59:46.56 ID:ceb7lbavO
お袋の家に電話をかけた。お袋が出た、眠たそうな声を出していた。寝ていたのだろう。
お袋に、そこにメリーがいるか確かめるように促した。
数秒経って、ほんの微かに小さな声が耳に届く。お袋の声だ。
「いなかった」お袋はそう言った。
お袋は混乱していた。無論、僕もだが。
メリーが同僚の家で死んでいた?
しかも死んで数週間経っている?
ならさっき会ったメリーは何だ?
今までのメリーは誰だったんだ?
僕は一体誰を相手にしてたんだ?
明日は、もう来ないのだろうか?
机に突っ伏して、とにかく考え込んだ。
メリーはどこに────
132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:06:21.65 ID:ceb7lbavO
男「……」
朝だ。
どうやらいつの間にか寝ていたらしい。
頭が痛い。
だが仕事に行かなくちゃいけない。
しかし気力が出ない。
メリー。
僕を一度だけお父さんと呼んだメリー。
二度とその声と言葉を聞くことは無い。
涙は出なかった。
何がなんだか今でも理解できていなかったから。
男「……」
電話の留守電ボタンが点滅している。
ああそうか、もう仕事が始まってる時間だ。みんなカンカンに怒ってるんだろうな、だから電話を掛けてきたんだろう。
無気力ながら、ボタンに手を伸ばす。
133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:06:44.71 ID:FNJvbIO+O
メリーたん・・・
134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:08:28.93 ID:ceb7lbavO
「────……」
「わたし、メリーさん」
「……言い残したことは何もないって言っちゃったけど、まだあったわ」
「この『メリー』って名前、すごく好きなの」
「元は『メリーさんのひつじ』を聴いてから好きになったんだけど」
「昔、あなたがわたしのことをそう名付けて、呼んでくれたから、」
「とても、とっても大好きなの、この名前」
「すてきな名前で呼び続けてくれてありがとう」
「……あと」
「わたし、お父さんを愛してるわ」
「たとえ一日だけのお父さんだったとしても……」
「わたしにとってその日は記念日で、あなたが『お父さん』の日だから、覚えておいてね」
「……時間がないから、最後にもう一言」
「わたし、メリーさん。あなたの娘でいられてしあわせでした」
ぶつっ
135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:10:38.82 ID:EUOOZOFh0
全俺が泣いた
136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:11:03.45 ID:ceb7lbavO
男「……」
いつもの声。
メリーだった。
今、ようやく気付いた。
そうだ、メリーは『お父さん』を求めていた。
あのメリーは死んでも死にきれず、『お父さん』を探していた。
そして昨日、僕が『お父さん』になってあげた。
涙が止まらなかった。
悲しい涙じゃない、これは嬉しい涙だ。
メリーは満足したんだろう。
満足して、お父さんと一緒になれたんだ。
137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:11:12.81 ID:PvmKsODT0
やばいww俺も泣きそうww
138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:11:16.01 ID:XIH9HZl4O
バッドエンドは許さない
絶対にだ
139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:13:28.75 ID:VfaqJvB/O
何故だかメリーさんの話はこういうのが多い気がしてならないのは気のせいか?
……メリーさん…
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:13:55.04 ID:zU/iS+DhO
いやもうね・・・
涙 が と ま ら ん
141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:15:30.56 ID:mnin08FkP
だってメリーさんは、幽霊のお話なんだもの
142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:15:55.01 ID:mZHYVMMN0
>「わたし、メリーさん。あなたの娘でいられてしあわせでした」
(´;ω;`)ぶわっ
143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:16:18.90 ID:ceb7lbavO
──幾年かの月日が経った。
『記念日』が来る度に、僕は二人のお墓に足を運んでいる。
男「お、まだ無事だな、良かった」
足を運んでは、墓にずっと置いてあるお供え物に手を出している。
彼女が僕の実家に置きっぱなしにしていたものだ。
罰が当たるかもしれないが、彼と彼女のために毎回こうしている。
決して悪いことではないと思う。僕があげたものなのだから。
男「よし、鳴らすぞ」
〜〜〜
かつて、彼女が好きだった音色を響かせた。
そのお供え物から発せられる曲につられてやってきたならば、君はこう言うだろう。
わたし、メリーさん。
おわり
144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:17:27.44 ID:ceb7lbavO
はいおしまいんちゃん
短かったけど付き合ってくれてありがとう
145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:19:26.43 ID:4rhKp+Cs0
乙
最初の会話みたいなのを
もうちょっとお願いしたい
146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:19:42.45 ID:VfaqJvB/O
>>1乙
147 :おじちゃん ◆saeki/0sD. :2010/08/13(金) 01:19:48.84 ID:nSm8bB+4O
思わず泣いた。
2ちゃんって、ニュー速ってこんなんあるから好きなんだよな。
ありがとう
(´・ω・)
148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:20:30.05 ID:lYlDTryRO
最初何番善次だよとか思ったらこんなシリアス展開とは
なかなか良かった
154 :おじちゃん ◆saeki/0sD. :2010/08/13(金) 01:22:55.36 ID:nSm8bB+4O
ぜひ>>1にはグッドエンディングで終わるストーリーを書いてもらいたい。
きっといい作品できそう
(´・ω・)
155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:23:17.57 ID:a6QevZi30
自称メリーさんは嘘でもなかったんだね…
メリースレはいつ見てもいいな。乙
156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:23:29.13 ID:hMcF5/3FO
徹夜で作業しなきゃいけないのに
ううチクショウ
でも>>1乙
157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:23:51.40 ID:mZHYVMMN0
いい話だった
乙
またどこかで会えるのを楽しみにしてるぜ
158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:24:16.03 ID:hMcF5/3FO
>>154
確かに別のストーリーでやってもらいたいな
159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:24:49.89 ID:zU/iS+DhO
乙だよ
160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:25:00.21 ID:EUOOZOFh0
>>1乙
最初から読んでただけにラストはキタ
161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:25:08.71 ID:ceb7lbavO
なんか続き求められてるレスあるけど
すまん、書いた俺が言うのもなんだけどこれ以上は蛇足になりえると思う
だから一つの短い物語として終わらせといてほしい
162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:26:22.48 ID:hMcF5/3FO
メリーたんと男と>>1乙
出会えたことに感謝
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:27:31.93 ID:hMcF5/3FO
>>161
無論それがいいと思う
またいつか別の話を書いてくれ
165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 01:30:03.50 ID:lYlDTryRO
何か親っていいもんだな
俺も早くなりたいがなるための相手も仕事もない…
187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/13(金) 09:07:33.22 ID:mZHYVMMN0
続編書いてとは言わないけど
新しく話を考えて欲しい
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